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追放貴族エルンストの受難~たぬきが聖剣を抜いてしまいました~  作者: あらまき


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どうしてそこに


 戦いが長引く。


 終わらない。

 どちらも終わってほしいと願っているはずなのに。


 実力は、決して拮抗していない。


 魔族に見初められ、魔人と化し、人ならざる領域へと至りながらも、その剣技は人の極致。

 あらゆる事情が噛み合った今のリシャールは、こと近接戦闘に限れば、世界有数と称しても過言ではない。


 対し、エルンスト陣営は出来損ないの集まりと言える。


 エルンストは、祝福を生かせない片手落ち状態で、かつ両手とも後遺症で痛み続けている。

 ついでに言えば、疲労も既に限界を超えていた。


 リディアもまた、病み上がりで無茶をしてここに来た段階で既にボロボロだった。

 魔力も底の底で、いつ気絶するかわかったものじゃない。


 たぬもちは、たぬもち。

 状態とか体調とか誤差で、たぬもちであることが最大の欠点。

 なのに、たぬもちがいないと勝ちの目は一切なくなる。


【魔性障壁】

 それは一部の高位魔族が持つ絶対防護障壁。

 その障壁を無効化するには、たぬもちの力――聖剣に選ばれた者の力に頼るしかなかった。


 ただでさえ戦力差が酷いのに、たぬもちを活用しなければならないなんて酷いリスクである。


 まったくもってどうしようもない。


 それなのに……何故か終わらない。

 戦いは、硬直状態を維持していた。


 五分、十分……三十分。

 一進一退攻防が繰り返され、ただ時間だけが無為に過ぎていく。


 お互い本気であるはずなのに、殺しきれない。


 特に、リシャールのいらだちは凄まじかった。

 自分が圧倒的有利であるとわかるからこそ、終わらないこの状況そのものが極大のストレスと化している。


「ちっ!」

 舌打ちと共に、リシャールはエルンストの武器を叩き壊す。

 直後、エルンストの手に握られた槍に腹部を貫かれた。

 壊される前に、既に槍の攻撃アクションに移っていた。


 顔を顰めながらも、そのまま槍を破壊する。

 下手に抜こうとするより、破壊し消滅させた方が被害が減ると、リシャールは学習していた。


 襲い来る光の矢は、軸をずらして躱しながらエルンストの剣を防ぐ。

 エルンストの持つ剣は、ソードブレイカーと呼ばれる剣を壊すために作られた剣の形状をしていた。

 けれど、そんなもの何も怖くない。


 リシャールはソードブレイカーを、軽くひねるように破壊する。

「お前が剣で俺に勝てるわけがないだろう!」

「ああ、わかってるよ」

 エルンストは、すっと、消えるようステップで移動。

 さっきまでエルンストが居た場所に光の矢が見える。

 目のまえであったため避ける暇もなく、リシャールの胴に矢は直撃した。


 これだ。

 さっきから繰り返される、一歩ミスったら自滅するような滅茶苦茶なコンビネーション。

 それが最も厄介であり、そして最も憎たらしい部分。

 どうしてそんなことが出来るのか、全く理解出来ないからこそ、嫌悪と憎しみが膨らんでいく。


(だが……これで……)

 リシャールは、己の勝ちを確信する。


 それは彼らが弱ってきたことでもなければ、夜に近づいていることでもない。

 もっと根本的な自分の強みであり、相手サイドの欠点。


 つまるところ――【魔性障壁】。


 数度の攻防でリシャールは、自分の魔性障壁が復活するタイミングを理解出来ていた。


 ようは、障壁が復活した後はあの小動物に触れられなければ良い。

 それだけで、こちらの勝ちは揺るがな――。


 ドスッと、鈍い音が響き、リシャールの腕に痛みが走った。

 まるで内側から無数の棘に貫かれるような、そんな激しい痛み。

 エルンストのあらゆる攻撃よりも、リディアの光の矢を何発受けたときよりも強烈であった。


「あがっ!」

 激痛に耐え兼ね、リシャールはエルンストから距離を取る。

 そして、痛む腕を見る。

 そこに、たった数センチサイズの金属片が刺さっていた。


「これは、聖剣の……」

 リシャールはリディアの方に目を向ける。

 その腕の中にいる小動物は、リシャールを睨むように見ていた。


 小さな魂は、ずっと考えていた。

 自分はどうしたら役に立てるのか。

 何をすれば、自分は意味ある存在になれるのか。


 そして……思いついた。

 自分が聖剣を使えるのなら、投げればどうだろうかと。

 だから、リディアにアピールして、聖剣の欠片を拾ってもらった。


 これは、リディアやエルンストのアイディアではない。

 一から十まですべて、たぬもちの考え。


 小さな魂であっても、それは彼らと共に、確かに戦っていた。


 憎しみが、募る。

 エルンストの猛攻を耐え、リディアの魔法を防ぎながら。

 たった二人。

 なのに、まるで無数の敵を相手にしているよう。


 こちらが上だ。

 俺は負けていない。

 リシャールはそう強く自覚している。


 それは間違いなく、事実だろう。

 リシャールに比類する奴など、この辺りにはいない。


 けれど……それでも……。


「なんで……なんでお前らは……そこに……」

 憎しみをぶつけ、斬撃を放つ。


 エルンストは躱しながら槍を投擲し、新しい武器を手にする。

 まっすぐ正面に立ちながら、決して目をそらさずに。


 視界の隅を、リディアがちらちらと走る。

 縦横無尽に立ち止まらず、背後を取り、嫌なタイミングでプレッシャーを与えてくる。


 ムカつく、憎たらしい。


 どうして勝てないのか、何故攻めきれないのか、リシャールにはもうわかっている。


 エルンストを弟にするため……というのはもう関係がない。

 戦闘が長引いた段階で、とうに殺すつもりで戦っている。


 リディアの魔法に関しても決定打とは決して言いきれない。

 優れてはいるが、単体で見ればそう大した脅威とはならない。


 ならば何故、勝てないのか。

 理由は、単純。


 エルンストとリディアは、お互いに一瞬だけ目を合わせる。

 その瞬間、二人の行動は作戦へと昇華された。


 つまり――『連携』。


 二人が心の底から信じ合い、お互いの伝えたいことを正しく理解し合っているからこそ、リシャールという強敵に対処できていた。


「くそが。くそがくそがくそがくそが! クソがぁ!」

 それが、その事実が、思いあっているということが、リシャールにはどうしても許せなかった。


 思いたくない。

 認めたくない。


 それでも、さっきからずっと、一つの言葉がリシャールの中で大きくなっていた。


『どうして……そこに、俺はいないんだ』


 強敵と戦い、苦しむエルンストの隣にいないこと。

 その事実、その矛盾が、リシャールの闇を深く鋭いものへと変えていた。


ありがとうございました。

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