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追放貴族エルンストの受難~たぬきが聖剣を抜いてしまいました~  作者: あらまき


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魔王からの刺客


 

 太陽を遮る深い曇天に、雷鳴が轟く。

 日中だというのに部屋の中は常に暗く、ほとんど視界を通さない。

 暗黒に沈む部屋の中央で、一人の男が巨大な椅子に腰掛け、赤い液体の入ったグラスを静かに揺らしていた。


 室内は閑散としており、余計な装飾や家具は存在しない。

 ただ、その空虚な空間にぽつりと置かれた巨大な椅子だけが、部屋の正体を雄弁に物語っていた。

 暗色の石で造られた威容なる椅子。

 それは――玉座と呼ばれるものだった。


 その建物に正式名称はない。

 けれど、彼らは敬意を込めこう呼んでいた。


『魔王城』


 一際激しい雷が落ちる。

 輝きに満ちた雷光が部屋を照らし、ほんの一瞬だけ、男の姿が露わになった。


 病的なまでに細い四肢と、人として見れば不健康すぎる不気味な顔色。

 けれどそれ以上に重要なのは、男の頭部。

 そこには、『二本の角』が生えていた。

 まごうことなき、人ならざる者の証である、鋭利な角が。


「……ふっ。ふふ……ついに、勇者が現れたのだな? 我らが怨敵である、勇者が……」

 魔王は、誰もいない空間にそう呟く。

 すると、まるで最初からそこにいたかのような態度で、女性が現れ同意を示した。


「はい。聖剣を持ち、一人旅に出たと」

「……ほぅ。一人旅か? 間違いはないな?」

「はい。人間は一人であったと、報告がございます」

「そうか。……仲間を連れずにか……。どうやら、随分と自信があるらしいな、今代の勇者は」

「通商路を使わず進んでいるあたりも、自信の表れでしょうね。いつでも襲って来いと」

「ふ、ふふ。ふふふ……随分と、我らのことを……」


 魔王の手に持つグラスががたがたと揺れ、波紋が生じていた。


 それは、地震でもなければ怒りでもない。

 その揺れは……魔王の膝が震えていることによるものだった。


「ふふ……怖い」

 魔王は小さく呟いた。


「ちょう怖い。もしも、副官の君が男性だったら、きっと我、ここで漏らしてる」

「お着換えをお持ちしましょうか?」

 淡々とした口調で副官は尋ねた。

「まだ大丈夫。でももっと怖かったらお願いするかも。というわけで、もう報告終わり?」

「いいえ、まだです」

「そかー」

 魔王は邪悪な笑みを浮かべている。

 けれど内心は、半泣きになっていた。


「祝福は不明。旅立ちの時、見送りがなかったそうです。ストイックなのか、秘匿しているからなのか。あとは……タイムラグを考えますと、順調ならそろそろ次の村か街に到着するころでしょう」

「そうか。順調か。考えただけで夜も眠れなくなりそうだ」

「それは当分、仕事がはかどりますね。それと、漏らすなら玉座以外でお願いします。掃除が大変そうなので」

「あの、我魔王なんだけど?」

「はい。知ってますが?」

「敬意とかなくなくない?」

「めっちゃありまくりですよ。ゴボウのささがきより敬愛しておりますとも」

「そかー。ゴボウより上くらいかー」

 魔王は邪悪な笑みのまま、何度か頷く。

 ちょっと涙目になっていた。


「まあ、それはそれとして、対策は取っておきたいな、この状況は」

「そうですね」

「というわけで……"彼女"を呼んでくれる?」

 副官は魔王の言葉に、少しだけ不快感を示す。

 それは、本日ずっと淡々としていた副官らしくない態度だった。


 けれどその命令に言い返すことはなく、小さく頷いた後、姿を消した。


 それからしばらくして、部屋の扉を開き、一人の少女が現れる。


 平均的な背丈の割に手足が長く豊満な、スタイルの良い身体。

 暁のように輝く美しい髪はどこまでも長い。

 物腰はやわらかく、穏やかな顔立ちに優しい笑みを浮かべている。


 そのどこまでもおしとやかな態度は聖母か、もしくは孤児院のシスターのようでさえある。


 けれど、そんな雰囲気とは正反対なものが、彼女の背に。

 蝙蝠を彷彿とさせる、巨大な黒い翼が、そこにあった。


 彼女は静かに、傅くようその場に跪いた。

「来たか。リディ」

 カリスママシマシな感じで魔王はささやく。

 ビビリだからどうせすぐ化けの皮は剥がれるけれど、威厳を保つ努力は怠らない。

 それが魔王流だった。


 リディと呼ばれた彼女は返事をしない。

 自分のような末端の魔族が、主に余計な手間を取らせぬために、あえて無言のままでいた。


『リディア・リデンプション』

 彼女は魔族としての素質・能力・生まれ、あらゆるものが不遇であった。

 無能と言っても良い過言ではない。


 けれど、彼女は魔王に重宝されている。

 それは贔屓などではなく、彼女の"本当の価値"を魔王が理解しているからに他ならなかった。


「リディ。これより重要な任務を任せる。これは魔族の命運を分ける、極めて重要なものだ」

「――この命を持って、やり遂げてみせます」

「うむ。我らの怨敵が現れたのは、聞いているな?」

「先ほど、副官より教えて頂きました」

「うむ。その勇者を……処分しろ」

 リディの身体が、びくりと震える。


 普段、魔王はふんわりしている。

 その魔王が、これほど鋭く断言するなんて、よほど勇者というのは恐ろし――。


「あ、処分ってのは言い方も良くないね。危ないし怖いし。だからこう……勇者をここにこさせないとか、平和主義者にするとか、なんかこううまい感じにやって」

 訂正、いつもの魔王様だった。


「私はこれでも、魔王様に忠義を持っているつもりでおります。それでも、これ以上なくふわっとした命令にはちょっと命を賭けたくはないのですが……」

「いや命とか賭けなくても良いから。なんかいい感じにさ、ほらこう……聖剣だけ盗むとか?」

「そういう任務なら、私より適任がいくらでもいるかと……」

「いやいや。現場判断ってとても重要だって、我思うのよ。というわけで、リディ、君に任せた。手段は問わないから良い感じにやってみて」

「いやまあ……恩義あるんでやりますけど……」

 リディアの中に、不安とも異なるなんともいえないもやっとした気持ちが渦巻いていた。


「ありがとね。あ、報酬はなにが良い? 玉座とかいる? 玉座とか」

「御冗談を」

「いや、本気だけど?」


 リディアは眉をひそめた。

「……半端者の私が玉座などにつけば、皆の不満が爆発しますよ」

「そうかな? 我程度でもみな納得してくれてるし大丈夫じゃない?」


「……はぁ~~~~あ~~~~」

 リディは露骨に、嫌そうに溜息を吐いた。


「え? いやあの……ご、ごめんなさい?」

 魔王は良くわからず、首を傾げる。


 ふわっとして、適当で、臆病者のビビリで、情けなくて決断力なくて弱くて泣き虫で弱々しくて。

 間違いなく、歴代最弱の魔王である。

 けれど……。


「わずか百年で、出生率を五倍に引き上げ、平均寿命を倍以上伸ばしているのに自分を程度と言うのは、もはや嫌味でしかないですよ」


 誰でも立候補出来る状況で対立候補ゼロ。

 その意味が分からないのは、この魔王国ではたった一人だけだった。



ありがとうございました。

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