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追放貴族エルンストの受難~たぬきが聖剣を抜いてしまいました~  作者: あらまき


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リシャール・サヴァリオン


 のったりのったりと時間をかけて、ようやく次の街『アイザレム』へと辿り着いた。


 巨大な城門と、見渡す限りに続く防壁。

 非常に発展した街らしく、補給への期待も自然と高まる。


 ちなみにだが、この街が栄えている理由は隣街がミストラウルだからだ。

 そう――あれだけ時間をかけたにもかかわらず、まだ隣街。


 二つ目のトルンへ寄った時間は、完全に無駄になっていた。


「いっそここで馬車に乗るというのも手だな。……稼げる仕事があればだけど」

 エルンストはそう呟き、頭の上のたぬきに思いを馳せる。

 たぬき込みで出来る仕事が、どれだけあるか……。


「あはは……私も手伝いますよ。あまりお金は持ち合わせてませんが」

「いや、助かるよ。代わりにたぬもちを見てくれてるだけでも助かるし」

「そうですね。たぬもちさんを見ても良いですし、代わりに私が見ても。これってまるでふう……」

「ふう?」

「い、いえ! なんでもありません! それより、妙に賑やかですね」

 リディアに言われ、エルンストも確かにと思う。


 街に入るため行列に並んでいるが、まるで動く気配がない。

 それに、正門付近がやけに騒がしかった。


 しばらくしてから列が進み、正門が近くなってから、その混雑の正体をエルンストは見る。


 それは、巨大な獣の亡骸だった。

 体長十メートルを超える四足の獣。

 元の正体が何なのか判別出来ない程ボロボロになった亡骸を乗せた荷車は、あまりの巨体に正門を通り抜けられず、そこで足止めを食らっていた。


 ひそひそとした噂話を耳にする。

 何でもこの辺りを困らせていたヌシを、ミストラウルから来た英雄が倒してくれたらしいと。


 タイミング的に考えて、自分と同時に旅立った彼らだと、エルンストは理解した。


「あの……エルさん……」

 不安げな表情で、リディアはエルンストに声をかける。


 同期の成功をどう思っているのか、リディアは不安になっていた。


「いや、大丈夫だよ。気にしてない。……というか、当然と言えば当然だろう。俺の同期には何人も英雄候補がいたしな」

 そう言ってから、エルンストは微笑を浮かべる。

 まったく気にしてないと言えば嘘になるが、心配されるほどではない。

 そういう嫉妬に近い感情は、追放された時にすっぱり捨てている。


「おやぁ。どこの誰かと思ったら、無能のエルンストじゃないですか! 随分と遅いご到着ですなぁ」

 そのねちゃっとした嫌味が飛んでくる。

 どこか少年のような、甲高い声だった。


 それは、巨大な獣を積んだ荷車の方から。


 ニヤニヤとしながら、こちらを見る背の低い男。

 彼のことを、いや彼らのことをエルンストは知っていた。


「クリキ……」

「おや。忘れてなかったですか。僕のことなんて忘れてると思ってましたよ。おーいお前ら、エルンストがいるぞー!」

 そう言って、馬鹿にするような態度でクリキは仲間を呼んだ。

 荷車の周りにいた三人が、クリキの傍に。

 どうやらその四人でパーティーを組み、この獣を討伐したらしい。


 ニヤついた目が、一気に増えた。


 小柄なクリキ。

 武器屋の息子で、筋肉に憧れがある。

 祝福は『俊敏』。


 大柄だけど気の弱い本好きのロラン。

 祝福は『武器習熟』。


 一族代々剣士の家系であるオーレル。

 祝福は『剣術』。


 彼らとは、悪くない関係を築けていたとエルンストは思っている。

 けれど、追放された日を境にその関係は終わり、今では侮蔑の眼差ししか向けない。


 そして……最後の一人。


『リシャール・サヴァリオン』

 直接血の繋がりこそない遠縁ではあるが、同じサヴァリオンの一族。

 固有の祝福を継いでいないものの、優れた能力を持ち、英雄候補と呼ばれた男。


「なぁリシャール。何か言ってやれよ。こっちは既に英雄で、あっちはひぃこらしてようやくここに到着。笑えるよ――」

「黙れ」

 そう、リシャールはクリキに吐き捨てる。

 淡々とした口調だが、あまりにも鋭い威圧に、クリキも顔を青ざめさせ、声が出なくなっていた。


 リシャールは金の髪を靡かせ、周りの人たちから黄色い歓声を浴びている。

 チームリーダーで、美しい容姿で、そしてこの街の救世主。


 彼を望む声しか、ここには存在しない。

 そんなリシャールが、静かにエルンストを見る。


 その目は――深い闇だった。


 ゾワリとした恐怖が、エルンストの背を這う。

 距離があるはずなのに、剥き出しの憎しみが鮮明に伝わってくる。


 ――いや、あれは憎しみなどという生易しいものではない。


 限りなく殺意に近い、濃密な憎悪だった。


「……行くぞ」

 リシャールはそう呟き、荷車を街の人たちに任せ、仲間たちを連れその場を離れた。


「エルさん。その……大丈夫ですか?」

 横から見ていたリディアでさえ、それには気づいた。

 そのくらい、リシャールが向けた感情は激しいものだった。


「ああ。問題ないよ。だけど……どうしてだろう」

 答え、エルンストはたぬもちをぎゅっと抱きしめる。


 クリキたちのように馬鹿にしてくるのは、理解出来る。

 追放された時、街全体がそういう空気になっていた。

 馬鹿にする代わりに、命を奪うのは許してやろうというような……そんな。


 けれど、リシャールのように特別強い憎しみを抱くような理由は、どれだけ考えても思いつかなかった。


ありがとうございました。


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