【オーバーロード】
「ところで、聞いても良いですか? エルさんが何をできるかとか」
「んー? 興味ある?」
「はい。その……失礼でなければ」
「まあ、そうだよな。人類最高と言っても過言ではない能力。そして、その人類最高の能力をだいなしにした究極のしくじり。そりゃ気になるわ」
「それは否定出来ないですけど……どちらかと言えば、たぬもちさんの出来ることとか、そういうのを知っておくのは大切なことかなと」
リディアのそれが興味本位ではなく、真面目な理由だったことにエルンストは恥ずかしくなり、誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
「そうだな……。少し考えさせてくれ。説明が難しい」
「難しい……ですか?」
「ああ。俺の祝福は本当に強力でな、言うなれば何でもできるんだ」
「……なんでも?」
「ああ。と言ってもそれじゃあわかりづらいから、大まかな能力だけ羅列していくな」
エルンストは指を折りながら、自分の能力の重要な部分から再確認していった。
「まず、前提の対象支配。敵対種族だろうと人間だろうと容赦なく隷属状態にする。神以外なら通用するだろうな」
それが能力の基礎にして、基本。
その隷属状態にしてから、対象に作用するのが基本能力となる。
対象に命令を下すこと。
対象と相互で意思疎通が図れること。
対象の身体能力を大きく向上させること。
対象の特性を大きく強化すること。
「それに、お互い離れていても相手の場所がわかること……かな。他にも山ほどあるが、後はそう大したものじゃない。主要な能力は以上と思ってくれていい」
「ごめんなさい。確認したいんですど……身体能力の、大きな向上?」
「ああ。向上」
「……どのあたりが?」
リディアはたぬもちを見ながら、怪訝な表情で尋ねる。
ようやく目が覚めたのか、今はエルンストの頭の上で丸くなっていた。
「もともとの能力が高い奴ほど強化の影響は高い。つまりそういうことだ」
怠惰な割に良く動くと思ったら……という言葉を、リディアは静かに飲みんだ。
「ああ……うん。わかった。特性強化ってのは?」
「その対象の特性を強化する」
「たぬもちさんの何が強化されてます?」
「たぶん……雑食性……」
「えぇ……」
「太れるのも……才能だから……」
「もしかして、私に会う前はもう少し細かったです? この子」
「出会った当時なら、たぬもちって名前にしてなかったと思う」
「…………あっちゃぁ」
頭の上にいるたぬもちに手を伸ばし、リディアは複雑な表情でもちもちしだした。
「あとは……本来なら阿吽の呼吸ってくらい通じ合えるんだが……こいつの場合はなんとなく気持ちがわかる程度だな」
「それはそれで羨ましいですね。例えばどんなことを考えてるんですか、この子」
「飯、寝る、だるい、疲れた」
リディアはつい、無言となってしまう。
正直、それは目で見てもわかる反応であって、あまり意味があるようには感じられなかった。
「う、裏表のない性格なんだね、この子」
「何も考えてないを多重オブラートに包んだらそうなるんだな」
リディアは笑ってごまかした。
「あと、命令が下せるってのはどういう感じです?」
「文字通り。何でも言うことを聞かせられるぞ」
「……その頭に乗せたりも、命令?」
エルンストは苦笑して、首を横に振った。
「いいや。使ったのはたった一度。それもこいつと相談して実験的な意味でのみだ」
「どういうこと?」
「あまり使いたくないんだよ。とはいえ、もしかしたら超パワーアップするかもと思って、命令させてくれって頼んだんだよ。それで了承が出たから、『走れ』って命じた。結果で言えば……うん……」
いつも通りのドンくさダッシュで、しかも三十秒でぺたりとへたり込んだ。
「結論で言えば、特にパワーアップもないし、何ならたぬもちの筋金入りのサボり癖に劣るという、なんとも言えない結果に終わったな」
やれやれと両手を広げると、たぬもちも同じようなポーズを取る。
エルンストは困った顔で笑った後、たぬもちのほっぺをぐりぐりした。
「そう……。あなたは本当に良い人なのね」
リディアは微笑を浮かべ、そう告げる。
それだけの能力があるならば、人はもっと尊大になり、そして本当の意味で支配するだろう。
それこそ、奴隷のように扱って。
それをリディアは知っている。
だからこそ、エルンストが能力の割にどれだけ善良であるかを理解できていた。
「よしてくれ。照れる」
後頭部を掻き、苦笑する。
能力をちやほやされるならともかく、綺麗な女性に、それも自分の心を褒められるなんて経験はエルンストにはなかった。
「ううん。すごいことよ。でも、本当にすごいギフトね。まるで王様みたい」
「支配に限って言えば王さえも超える自負があるよ。……まあ、うん。たぬきでなければ」
「例えば私だったら?」
一瞬、ほんの一瞬だけ、自分に隷属させたリディアのことをエルンストは妄想する。
首輪をつけ、上目遣いで……。
ばたばたと手を動かし、頭の上のたぬもちをもふって、エルンストは妄想を振り払った。
「あの、エルさん?」
「い、いや。なんでもない! なんでもないんだ! そうだな……五倍から十倍かな」
「何がですか?」
「魔法の威力が。祝福の相乗強化だから、そのくらいにはなると思う」
「……本当に、エルさんって人類の希望だったんですね」
「人類とまでは大げさだけど、それに近いだけの祝福はあったと思うよ過去形だけど」
苦笑するエルンストを見つめて少し悩んだ後……リディアは、その問いを投げかけた。
「恨みはないんですか? 自分が、こんな目に遭ったことに。そして、自分の能力が……すべて……」
リディアはエルンストの頭の上に目を向ける。
もしも自分が同じ状況なら、きっと恨んでしまうから。
それがたとえ逆恨みだとわかったとしても。
「ないよ。恨みは。……いや、サヴァリオン家には若干恨みはあるけど、あとは別に。幸いなことに、動物は好きな方なんだ」
エルンストはたぬもちをもふって笑った。
「……かっこいいですね。本当、素敵だと思います」
きょとんとした後、エルンストはぼふっと顔を真っ赤にさせる。
その様子が面白くて、リディアはくすくすと笑った。
ありがとうございました。




