吸啜(はじめてのミルク)
うとうとと前世の夢を見る。
数多の触手。
泳ぎ、這う。海流にも負けぬ強くしなやかな吸盤を、海底の岩に貼り付け獲物を待つ。
獲物の捕獲用の触腕。
鋭い角質環と鉤爪。がつりと獲物を捕らえ、逃さない。
捕食用吸盤の口内にはぐるりと並んだ自慢の牙。獲物に吸い付き削り喰らう。
そして。
たまに水面を行き来する陸上生物も、伸ばした触腕を絡めて捕らえ、喰らう。
普通のことだ。
陸の生物も海の生物を捕らえて喰らうだろう。
普通のことなのに、なぜ陸の勇者は我を憎み、恨み、わざわざ海中まで……。
……いや、……我を食うためか?
なるほど、だから我が触手は切り取られ、残った数少ない触手もこれほど短いのか。
ならば仕方ない、摂理である。
だが我が地上に現れた以上、貴様らも食われる覚悟をしておくがよい。
……などと半覚醒していたら、口元に何かがツンツンと当たった。
反射的に喰らいつく。
これは、生き物?
食えそうな感触だ。
くくく、運が悪かったな。光栄に思え、貴様が最初の我が獲物だ。
さあ、ガブっと……。
ガブ……? モニュ……モニュ……。
……我が牙はどこだ!!
引っかかりがないではないか! くっ、これでは噛り取ることができぬ。
なんとか、吸い千切れないものだろうか。
我は全精力を傾けてひたすらに吸い付く。
プチュっとした感触とともに、何か汁が出た。
この生き物の体液か? うむ、悪くはない。
正直、腹が減っているから何でも良い。ひとまずはこいつを飲み尽くすとするか。
……チビチビしか出ないな!
まどろっこしいが、今の我の力では仕方がない。
ありったけの力を振り絞って吸い続ける。
もう少し……まだ、もう少し……
もう……
……疲れた。
寝る。
……触手の裏を撫でるな! 気色悪い!
……尻を叩くな! やめろ! 我は寝るのだ!
……寝る!
* * *
新生児すぐ寝る。
寝ないでください。飲みきってください。
こんなちっちゃくてグニャグニャでギリギリで生きてるのに、全力で乳を吸う。
余力なさすぎて手も足もダルンダルンに脱力してる。可愛い。
もう、なんて言うか、ただ生きるために全力で生きてる。可愛い。
てか、誰も教えてないのに吸い付くのってどういう理屈?
絶対前世の記憶でしょ。




