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追放された貧乏伯爵家の在庫係、余り物に触れると『次の持ち主』が見えるので倉庫から領地を救います  作者: 花守りつ


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四七番車は、返還倉庫予定地へ帰っていません

白霧港の荷車置き場に、四七番車はなかった。


あるのは、雨で黒ずんだ車止めと、札の外された釘穴だけだ。


港役人は肩をすくめる。


「救済荷車は帰着済みだ。王都救済準備室の控えにも、そう上がっている」


「帰着済みなら、どこへ帰ったのですか」


ミラが尋ねると、役人は一瞬だけ黙った。


カイが低く言う。


「四七番車は昨日、返還倉庫予定地の売却図面を積んでいた。黒札で番号を隠してたけど、俺は角を見た」


「なら、帰る場所は三つあります」


ミラは青札を三枚、濡れないよう木箱の上へ並べた。


一つ目。


白霧港救済荷車、四七番。


二つ目。


返還倉庫予定地、売却図面運搬。


三つ目。


王都救済準備室、責任部署報告。


「荷車が消えても、書類がどこかに着いても、生活到着は完了しません。荷車は、誰を乗せ、何を運び、どの場所へ戻り、そこで誰の手順を開くかまで数えます」


「荷車に生活も何もあるか」


役人が鼻で笑った。


その時、荷車置き場の端からリオが小さく手を挙げた。


「……四七番には、雨避け棚の板も積んでました」


「板?」


「返還倉庫予定地に置くやつです。荷ほどき台と、夜番灯を掛ける柱と、賃金受取机の脚。図面だけじゃない。帰ってきた人が濡れずに名前を書く場所を作るって、ノエルが言ってた」


ミラは息を止めた。


返還倉庫予定地は、ただの土地ではない。


未配送の瓶が戻る棚。


未受領の賃金を本人が受け取る机。


帰着先のない夜勤者が、犯人欄ではなく本人欄へ名前を書ける灯り。


そこへ届くはずだった板と柱が、荷車ごと「帰着済み」にされている。


「リオさん。その板を積んだ時、受取先の名前を見ましたか」


「商会保管庫、って札がありました。でもノエルが首を振って、裏に小さく書き足してました」


「何を」


「返還倉庫予定地。生活到着口、って」


役人の顔色が変わる。


「余計な書き込みだ。売却図面は正式に用途変更済みだ」


「用途変更済み、ではありません」


ミラは旧入港帳の写しから、四七の番号が滲んだ行を指で押さえた。


指先に、短い景色が流れ込む。


雨。


車輪。


濡れた板束。


荷ほどき台の上で、小さな薬瓶が一列に並ぶはずだった未来。


夜番灯の下で、リオが半日賃金を受け取るはずだった未来。


ノエルが月印を押した後、自分の帰着札を結び直すはずだった未来。


けれど、その未来の手前で、黒い札がかぶせられる。


商会保管庫。


売却準備済み。


帰着済み。


三つのきれいな言葉が、まだ着いていないものを閉じようとしていた。


ミラは目を開ける。


「四七番車は、商会保管庫へ帰ったのではありません。返還倉庫予定地へ着く前に、売却図面の言葉へ押し込まれています」


「証拠は」


「ここに」


ミラは図面控えの端を示した。


雨で薄くなった紙の隅に、車輪の泥が丸く残っている。


その泥の上に、帰着印が押されていた。


順番が逆だ。


荷車が帰ってから押すべき印が、泥の上から図面へ先に押されている。


「この帰着印は、荷車の帰着ではありません。売却図面を閉じるために、四七番車の番号を使った印です」


カイが拳を握った。


「じゃあ、車はまだ帰ってないのに、図面だけ帰ったことにされたのか」


「はい」


ミラは新しい青札を一枚出した。


四七番車、生活到着未完了。


板束、返還倉庫予定地未受領。


リオ賃金、本人未受領。


ノエル月印、本人帰着未確認。


四行を書き終えると、リオが震える声で言った。


「俺の名前も、そこに入れていいんですか」


「もう入っています」


ミラは賃金帳の写しを彼へ向ける。


「でも、あなた自身の字でも止めてください。四七番車を押した人が帰れていないなら、荷車も帰着済みではありません」


リオは炭筆を受け取り、青札の下にゆっくり書いた。


荷車押しリオ。四七番車、返還倉庫予定地未到着を見ました。


それだけで、売却図面の「帰着済み」は、もう一枚では閉じられなくなった。


役人が紙を奪おうとしたが、セナが薬箱を机に置いて前へ出る。


「この札が消えるなら、今夜の救護瓶も、誰が受け取ったかわからない箱になります。私は証人になります」


カイも続けて名前を書いた。


港の端で、黙っていた夜勤者が一人、また一人と近づいてくる。


「四七番、外門を出たのは見た」


「でも、港へ戻ったのは見ていない」


「商会保管庫の裏で、板を降ろしていた」


声は小さい。


けれど、小さい声が三つ並ぶと、帰着済みより重くなる。


ミラは青札を図面控えへ重ねた。


「王都救済準備室へは、犯人名ではなく責任部署確認として送ります。生活到着口を商会保管庫へ書き換えた部署、帰着印を先押しした部署、四七番車を戻したと言った部署。この三つを分けてください」


「そんな面倒な報告を通すわけがない」


役人が吐き捨てた時、図面控えの裏から、もう一枚の薄い紙が滑り落ちた。


そこには、四七番車の帰着印が、きれいに押されていた。


日付は、昨日の夕方。


ノエルの月印が港に現れる、二時間前だった。


ミラは紙を拾い上げる。


「帰着印が、帰る前に押されています」


返還倉庫予定地も、四七番車も、ノエルも、リオの賃金も。


まだ、どこにも帰っていない。


ミラは最後の青札を書いた。


先押し帰着印、生活到着未確認。責任部署名、未記載。


次に数えるべきものは、車輪ではない。


誰が、帰る前のものを帰ったことにできる部署なのか。

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