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12.エンディング

 今日の舞は変事が多かったためか、雷鳴が多いわりに、雨は降ったりやんだりを繰り返していた。

 城外へ出たクリフは、雷と雨が鳴り止んでいる間にと、急いでルンソルンを袋から出した。

 大きくなっていくルンソルンを見るのは二度目だというのに、どうしても大きな天鼬と同じ生物には思えなかった。

 長距離を飛ぶということもあって、クリフは二人用の天鼬の装具を用意してくれた。基本的には馬の装具に似ている。

 ルンプーは巣離れするにはもう少し時間がかかるようだ。まだ、母親のルンルンと一緒にいる。当分、ルンソルンに世話になるしかない。

 クリフに手を引かれて、イェリンは天鼬に跨った。落ちないよう、クリフの後方にある鞍へしっかりと革ベルトで固定された。

 天鼬は、いつものように静かに上空へと舞い上がった。

 上空へ舞い上がった天鼬は、かなり速く飛び始めた。

「ところで」イェリンは、どうしても得心が行かない結末の理由を尋ねようとした。

「えー、聞こえないよ!」

 クリフの後ろに、しがみ付いてイェリンは叫んだ。

「大神官はどうなるの」

 イェリンは無実の罪を着せられかけた。その原因を作った大神官が、なんのとがめも受けずにのうのうと神殿に残るなど、イェリンには許しがたかった。

「もう歳だし、そろそろ引退するんじゃないの?」

「なにそれ」イェリンは、がっかりした。

「今は、王様がまだまだ頼りないからな。まっ、俺もだけど。今の状態で宗教にまで頭を突っ込む余裕がない」

 自信過剰と思っていたクリフが、意外なことを口にしたので、どんな顔をしているのかイェリンは見てみたくなった。しかし、クリフの背後にいるイェリンにはそれはかなわない。

「しばらくは、大神官もおとなしくしていてくれるだろう。これも、イェリンの御蔭だ。それに、なんやかんや言っても、彼の人脈や能力は捨てがたい」

「なんか、納得できないけど」

「それが、政治というものだ」

「大人ね」

 イェリンは皮肉った。

「いずれは、なんとかするさ」

「まさか、神殿へ戻ったりしないでしょう」

 イェリンは、心配になって尋ねた。

 青の神殿に残っていればクリフは大神官になっていたかもしれないと、ディーンが言っていた。神官の間では有名人だったから、顔を隠すために甲冑を身に纏っていたらしい。

「それはない。神殿を捨てて、ディーンのもとへ来たんだ」

 きっと、クリフはディーンと共に、もっと住みやすい国作りを進めてくれるのだろう。

 話題も途切れ、暇になったイェリンは、しかたなく、下界を見下ろした。そこにはまるで小人の国のような可愛らしい町の眺めに、しばし心を奪われた。前回は、景色を眺める余裕などなかったのだから、初めての経験のようなものだ。

「指の怪我は、治ったか?」

 唐突に尋ねてきたクリフに、今まで忘れていた毒針にけがをした親指を思い出した。

「そんなにすぐによくなるわけ……あれ? 治ってる!?」訊かれて、指を見たイェリンは驚いた。

「子どもの頃に話した俺の秘密がこれ」

「父があなたに治してもらったと、感謝していたのは、文字通りってわけ?」

 イェリンが頬に負った傷も晴れた指にも、クリフは唇を触れた。イェリンは、父に対するクリフの治療姿に、よからぬ想像を巡らせ、イェリンはぞっとした。少しずつクリフから身体を離した。

「手で触れるだけでも、治せるから大丈夫」まるで、イェリンの心を見透かしたようだった。

「だったら、私のも」

「ちょっとくらい、いい思いしても、罰は当らないだろ」

 クリフの言葉に、二の句が継げない。硬派だと思っていたが、やはり間違いなく、ディーンとは兄弟のようだ。

 不意に、イェリンの耳に、クリフの怯えた声が聞こえる。

「ちょっと待て! イェリンの任務に付き添うってことは、あ、あれだよな」

「なに?」

「もれなく、雷が付いてくるってこと?」

「そうね、雨乞いの後は、必ず雷鳴を聞いてから雨が降るから」

「そ、それを、先に言えよな!」

「じゃあ、殿下だけ降りる?」

「いや、雷ごときで、これほどの役得を手放す気は、サラサラないね」

 にやけたクリフの声に、クリフにしがみ付いていた手を、慌てて離しかけた。クリフは、離れそうになったイェリンの手を、瞬時につかんだ。

「危ないよ、イェリン」

 優しい声音に、イェリンは強張った身体をさらに硬くする。

 クリフから少し離れたイェリンの体温は、風を切って奪われていく。寒さに身体を震わせたイェリンはそっとクリフに身体を寄せた。ほっとする温かさだった。まだ幼かった頃の洞穴の中で抱きしめてくれた少年の体温を思い出す。

 ふと、イェリンは頬を綻ばせた。

『どんなに僕が変わっていたとしても、気づいてね。そうしたら、イェリンをお嫁さんにしてあげる』

 あんなに思い出せなかった、少年の言葉が蘇った。

 結局、少年との約束は、どれも果たせなかった。

 五日前の印象とはまるで違うクリフだった。今のクリフは、少年時代とあまり変わらないいような気がする。でも、冷たかったクリフも嫌いじゃない。冷たさの中にも愛情を感じて……やっぱり、知らず知らずに、クリフに恋をしていた。

 唯一の弱点が雷という策士の罠に、イェリンはまんまとはめられた気がした。九年も昔にイェリンの心は、クリフにとらわれたままだった。どんなにあがいても、きっと心は解き放たれることはないだろう。

「ねえ、クリフ」

「うん?」

 わずかに顔を後ろに向けたクリフの頬に、イェリンはそっと唇を寄せた。



  ―― 完 ――   

最後までお付き合いありがとうございました。

(^-^)/~ マタネッ

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