008...腹が減る
朝。
寒さで目が覚めた。
火は消えかけていた。
灰。
小さな煙。
それを見た瞬間、妙に焦る。
「……火」
慌てて枝を足す。
パチッ。
炎が戻る。
それだけで少し安心した。
【《旧石器》適応率 9%】
【火の維持意識 微上昇】
「だからなんなんだよ微上昇って……」
でも。
火が消えるの、普通に怖かった。
夜の暗闇を思い出す。
あれは本当にヤバかった。
その時。
グゥゥ……
腹が鳴る。
干し肉を見つめる。
残り少し。
……終わってる。
このままだと数日で詰む。
「食わなきゃ……」
立ち上がる。
森へ入る。
冷たい。
静か。
木々の間を歩く。
何を探せばいいのかも分からない。
動物?
木の実?
キノコ?
下手したら毒だ。
「知識ゼロでサバイバルとか無理だろ……」
その時。
ふと、木の根元が気になった。
赤い実。
小さい。
昨日も見た気がする。
なんとなく近づく。
【《旧石器》適応率 10%】
【嗅覚 微上昇】
鼻に、少し酸っぱい匂い。
……腐ってない。
なんとなく。
本当に、なんとなくだけ。
“食えそう”だった。
「マジか?」
恐る恐る一個食べる。
「……すっぱ」
でも。
腹は壊れなかった。
俺は夢中で実を集めた。
少ない。
全然足りない。
でも。
ゼロよりマシ。
その時だった。
ガサッ。
「っ!」
反射的に石を掴む。
振り向く。
……鹿だった。
小さい。
茶色。
こっちを見てる。
数秒。
目が合う。
そして逃げた。
「……」
腹が減った。
めちゃくちゃ減った。
頭の中に、変な考えが浮かぶ。
……あれ食えそう。
その瞬間。
【《旧石器》適応率 11%】
【狩猟本能 微上昇】
「怖っ……」
思わず呟いた。
昨日までの俺なら、 鹿見て“かわいい”で終わってた。
でも今は違う。
“食料”って思った。
それが少し怖かった。
そして現実はもっと怖い。
鹿なんて捕まえられるわけがない。
武器もない。
罠もない。
あるのは石だけ。
……石。
弱い。
でも。
遠くから投げられる。
俺は地面の石を拾った。
少し重い。
手に馴染む。
昨日より、ほんの少しだけ。
“投げやすそうな石”が分かる気がした。




