005...追い出される夜
それから三日後。
ブラックウルフは現れなかった。
だが。
村の空気は悪くなる一方だった。
皆、ピリついている。
食料が減っているからだ。
パンは薄くなった。
スープの具も減った。
子供の泣き声が増えた。
冬前の空気だった。
そして。
俺を見る目も変わっていった。
「……」
村人たちは何も言わない。
でも分かる。
“余裕がない目”だ。
この世界では。
弱い人間は、負担になる。
その夜。
村長に呼ばれた。
外は寒い。
息が白い。
村長の家へ入ると、重い空気があった。
村長。
神官。
狩人たち。
皆、疲れた顔をしている。
そして。
テーブルの上には、食料表。
嫌な予感しかしなかった。
「……レクト」
村長が口を開く。
「今年の冬は厳しい」
「……はい」
「このままだと、村が持たん」
静かな声だった。
怒鳴られもしない。
だから余計に重かった。
村長は続ける。
「アイリスは王都へ行く」
「そうですね」
「王都側も、“余計な人員は連れてくるな”と言っている」
余計な人員。
つまり俺。
神官が気まずそうに目を逸らす。
誰も悪人じゃない。
でも。
誰も助けてくれない。
村長は最後に言った。
「……村を出てくれ」
静寂。
火の音だけが聞こえる。
パチッ。
パチッ。
俺は少しだけ火を見つめた。
不思議と落ち着いた。
怖いはずなのに。
外へ出たら死ぬかもしれないのに。
火があると、少しだけ平気だった。
【《旧石器》適応率 3%】
【夜間不安 微減】
「……」
まただ。
青白い文字。
意味分からない。
でも今は、それより現実の方が重かった。
「……いつまでに?」
「明日の朝だ」
早い。
でも。
冬前だ。
時間がないのは分かる。
俺は立ち上がった。
「分かりました」
村長が顔を歪める。
「すまん……」
その顔で、本当に申し訳なく思ってるのが分かった。
だから。
恨めなかった。
家を出る。
冷たい風。
暗い夜。
その時だった。
「レクト!!」
アイリスが走ってきた。
泣いていた。
「なんで!? なんでレクトなの!?」
「弱いからだろ」
「そんなの!!」
「事実だ」
アイリスが言葉を詰まらせる。
俺は少し笑った。
「まぁ、なんとかするよ」
「嘘だ……!」
鋭かった。
図星だ。
俺はたぶん死ぬ。
森で。
冬で。
魔物もいる。
《石を投げる》しかない。
終わってる。
でも。
それでも。
ここで泣くのだけは嫌だった。
アイリスは震えながら、小さな袋を押し付けてきた。
「これ持ってって……!」
パン。
干し肉。
少しの保存食。
たぶん。
アイリスが自分用に隠してた分だ。
「……いいのか」
「よくない!」
泣きながら怒鳴る。
「でも持ってって!!」
俺は袋を受け取った。
温かかった。
その温度が。
少しだけ胸に痛かった。




