038...怖さのあと
ハードウルフが消えたあとも。
俺の震えは止まらなかった。
ガタガタ震える。
寒さじゃない。
怖さだ。
心臓がまだ痛い。
「レクト」
ミナが隣へ来る。
だが。
俺はすぐ返事できなかった。
さっきの感覚が残ってる。
頭だけ冷たい。
身体は怖い。
なのに。
投げる瞬間だけ、 妙に狙いが分かった。
「……最悪だ」
ジンが火へ枝を足しながら聞く。
「何した」
「知らん」
「嘘つけ」
「本当に知らん」
でも。
頭の中には残っていた。
【“狩猟投擲”】
【対価: 恐怖】
あれを使った瞬間。
怖さが何倍にもなった。
代わりに。
狙いだけ異常に冴えた。
「……対価」
「?」
ミナが首を傾げる。
俺はゆっくり説明した。
「知識を使う時は、物が減る」
燻製。
土器。
保存。
全部そうだった。
「で、さっきのは違う」
「違う?」
「怖くなった」
ミナが少し黙る。
ジンは理解が早かった。
「感情を食ったのか」
「……多分」
火が揺れる。
パチッ。
その時。
胸の奥に、妙な嫌悪感が残っていた。
怖い。
でも。
もう一回やれば、 もっと上手く投げられる気もする。
その考えが気持ち悪かった。
【《縄文》適応率 25%】
【“群れを守るためなら感情を使いたくなる”】
「やめろその進化……」
だが。
完全には否定できない。
もし今の石が外れてたら。
ジンが死んでたかもしれない。
ミナも。
火も。
全部終わってた。
その時。
ミナがぽつりと言った。
「でも、守った」
静かになる。
俺は火を見る。
怖かった。
本当に。
でも。
石を投げたのは、 自分が生きたいだけじゃなかった。
火。
群れ。
ここ。
守りたかった。
その感覚が。
少しずつ強くなってる。




