036...ジン
煙が森へ流れていく。
燻した肉の匂い。
火の音。
最近、この時間だけ少し落ち着く。
三人で火を囲んで座る。
自然と円になる。
誰も言わないのに。
その時。
ふと気づいた。
「……そういや」
男を見る。
「名前、聞いてなかった」
ミナも顔を上げる。
確かにそうだ。
ずっと“男”だった。
火の向こうで、男は少し黙った。
パチッ。
火が鳴る。
しばらくして。
「……ジン」
低い声。
「俺の名前だ」
「なんで今まで言わなかった」
ジンは火を見たまま答える。
「生き残るか分からなかったからな」
静かになる。
その言葉が、この森では当たり前すぎた。
昨日死んでもおかしくなかった。
今日だってそうだ。
名前を名乗る前に死ぬ。
普通にある。
ミナが小さく呟く。
「……今は?」
ジンは少しだけ笑った。
「少しは生きれそうだ」
その瞬間。
胸の奥が少し温かくなる。
【《縄文》適応率 18%】
【“群れの名前を覚えると安心感 微上昇”】
「感情まで縄文なんだよなぁ……」
でも。
本当にちょっと安心した。
“男”じゃない。
ジンだ。
名前がつくと、急に“仲間”になった気がする。
その時。
ミナが俺を見る。
「レクトも、前より顔変わった」
「またそれ?」
「うん」
「どんな」
ミナは少し考えてから言った。
「前は、すぐ死にそうだった」
「失礼だな」
「今は……」
火を見る。
石壁を見る。
燻製肉を見る。
「ここ守りそうな顔してる」
その言葉で、少し黙る。
守る。
確かに。
最近ずっと考えてる。
雨。
食料。
火。
壁。
全部。
“壊れたら困る”。
それが前より強い。
【《縄文》適応率 20%】
【“住処を守りたい感情 微上昇”】
その時だった。
森の奥で、枝が折れる音がした。
バキッ。
三人同時に顔を上げる。
静か。
風の音。
そして。
もう一回。
バキッ。
……大きい。
ジンの顔が険しくなる。
「この音……」
石槍を握る。
火が揺れる。
そして次の瞬間。
茂みの奥から巨大な影が現れた。




