032...スキル2「縄文」
夜だった。
火が静かに燃えている。
パチパチ。
赤い光が石壁を照らしていた。
最近、少しだけ落ち着いて眠れるようになった。
火がある。
屋根がある。
風を防げる。
たったそれだけなのに、
最初の頃とは全然違う。
ミナはもう寝ている。
男も壁にもたれて目を閉じていた。
俺は一人、火を見ていた。
……なんか変だ。
胸の奥が熱い。
頭の奥が、ずっとざわついてる。
その時だった。
【《旧石器》適応完了】
青白い文字。
次の瞬間。
火が、ボォッと強く揺れた。
「っ!?」
熱。
頭へ大量の感覚が流れ込んでくる。
石。
火。
群れ。
狩り。
夜。
寒さ。
……そして。
土。
保存。
住む。
知らない感覚が混ざる。
「ぐっ……!」
頭を押さえる。
痛い。
でも。
無理やり詰め込まれる感じじゃない。
思い出してる感覚に近かった。
「レクト!?」
ミナが飛び起きる。
男も立ち上がった。
「どうした!」
「……なんか、来る……!」
その瞬間。
【スキル《時代》】
【レベル2へ上昇】
【《縄文》を獲得】
視界の中へ文字が流れる。
今までと違う。
その下に、さらに続きが浮かんだ。
【《時代》スキルについて】
【知識系能力には対価が必要です】
「……対価?」
次の瞬間。
腰袋が軽くなる。
「え?」
慌てて見る。
鹿肉。
黒く変色していた。
木の実も崩れる。
ボロッ。
「なっ!?」
ミナが目を見開く。
男も顔をしかめた。
「腐った……?」
違う。
腐ったんじゃない。
“消費された”。
頭の中へ、感覚が流れ込んでくる。
肉を保存する知識。
煙。
乾燥。
湿気。
土器。
火加減。
知らないはずなのに分かる。
【対価支払い完了】
【《縄文》知識を取得】
俺は青ざめた。
「……食われた」
「は?」
「知識の代わりに」
火が揺れる。
パチッ。
その時。
地面の土が妙に気になった。
湿ってる。
粘る。
手にくっつく。
……使える。
そんな感覚がある。
頭の中に“形”が浮かぶ。
丸い器。
火。
保存。
その瞬間。
【《縄文》初期技能】
【“土器作成”】
【使用対価: 粘土 or 保存食】
俺は少し黙った。
……なるほど。
このスキル。
何でも無料で使えるわけじゃない。
知識を得る時、その時代に関係する“物”を食う。
だから。
《旧石器》では対価が軽かった。
石。
土。
火。
どこにでもある。
でも。
《縄文》になった瞬間。
保存食が対価になった。
つまり。
時代が進むほど必要な物も重くなる。
「終わってるだろこのスキル……」
男が低く聞く。
「何が起きてる」
俺は少し考えてから言った。
「……この力、多分」
火を見る。
石壁を見る。
屋根を見る。
俺たちが積み上げてきたものを見る。
「“生き方”を進める力だ」
ミナが首を傾げた。
「生き方?」
「人がどう生きてきたか……みたいな」
うまく説明できない。
でも。
頭の奥では分かっていた。
《旧石器》は、
“死なないための時代”。
そして。
《縄文》は、“残す時代”だ。
食料を。
火を。
住処を。
群れを。
未来へ残す。
その時。
俺の視線は自然と積んだ石壁へ向いていた。
……直したい。
もっと強くしたい。
雨を防ぎたい。
食料を置きたい。
その感覚に、自分で少しゾッとした。
文明って。
たぶんこうやって始まる。




