029...スキル「鼻が良くなる」「森に生きる者」
朝。
俺は匂いで目が覚めた。
「……?」
煙。
湿った土。
それと。
獣。
顔を上げる。
火は残ってる。
ミナも男もまだ寝ていた。
その時。
また匂う。
近い。
昨日より。
【《旧石器》適応率 94%】
【“鼻がよくなる”を獲得】
「もう鼻が犬なんよ……」
だが。
本当に分かる。
風向き。
湿り気。
血の臭い。
獣の臭い。
その時。
ガサッ。
反射的に石を掴む。
視線を向ける。
……鹿だった。
小さい。
若い個体。
火を警戒しながら、水を飲んでいる。
俺は静かにミナを起こした。
「鹿」
ミナの目が開く。
一瞬で眠気が消えた。
男も起きる。
三人とも無言。
腹が減ってる。
だが。
前みたいに焦らなかった。
少しだけ。
“狩れるかも”って思えた。
その感覚に、自分で驚く。
俺たちは静かに動いた。
石。
位置。
風向き。
火。
全部を考える。
真正面から勝てない。
だから工夫する。
それが当たり前になり始めていた。
その時。
ふと気づく。
俺。
前より森を見てる。
木。
音。
臭い。
動き。
全部。
村にいた頃は気にしたこともなかった。
【“森に生きる者”を獲得】
「スキル名が完全に生活なんだよなぁ……」
でも。
生活しなきゃ死ぬ。
それが現実だった。
ミナが小さく囁く。
「レクト」
「ん?」
「顔、ちょっと変わった」
「え?」
「森の顔してる」
「嫌な表現だな……」
でも。
否定できなかった。
最近。
火を見ると安心する。
裸足の方が歩きやすい。
臭いで気づく。
夜が怖い。
群れが落ち着く。
……たぶん今の俺。
村に戻ったら、 前より人間っぽくない。




