024...初めての満腹
鹿は重かった。
三人がかりで引きずる。
途中で何度も休憩した。
「重……っ」
「当たり前」
ミナは少し笑っていた。
昨日まで死にそうな顔してたのに。
その変化が、少し嬉しかった。
風避けの場所へ戻る。
火を起こす。
肉を切る。
焼く。
ジュゥゥ……
油が落ちる音。
匂い。
もうそれだけで腹が鳴る。
「まだか」
「まだ」
「まだ?」
「まだ」
全員限界だった。
そして。
「……食うぞ」
三人同時に肉へ飛びついた。
熱い。
硬い。
でも。
うまい。
今まで食ったどんな飯より美味かった。
夢中で食べる。
無言。
ただ食う。
火。
肉。
群れ。
その瞬間。
頭の奥へ妙な感覚が流れ込んだ。
人類。
狩り。
分け合う。
囲む。
笑う。
【《旧石器》適応率 83%】
【“食料を分けると少し安心する”を獲得】
「完全に群れの動物なんだよなぁ……」
でも。
本当に安心した。
食べ物がある。
火がある。
人がいる。
昨日まで全部なかった。
男が肉を齧りながら言った。
「……生き残れるかもしれんな」
その言葉で、少し静かになる。
生き残る。
そんなこと。
昨日までは考えられなかった。
その時。
ミナがぽつりと言った。
「ここ、ちょっと家みたい」
火の音だけが響く。
俺は周囲を見る。
石を積んだ風避け。
火。
肉。
座る三人。
……家。
その言葉が、妙に胸へ残った。
俺にはもう帰る場所なんてないと思ってた。
でも。
火を囲むこの場所だけは。
少しだけ。
“居てもいい場所”に思えた。
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