018...3人目
男は火の前で震えていた。
顔色が悪い。
腕の傷も深い。
放っておいたら死ぬ。
でも。
助ければ、食料が減る。
俺は少し黙った。
ミナも黙っている。
火だけがパチパチ鳴っていた。
その時。
男の腹が鳴った。
グゥゥ……
静かな森に響く。
「……」
俺はウサギ肉の残りを見る。
少ない。
本当に少ない。
でも。
その腹の音を聞いた瞬間。
胸が妙に痛かった。
……分かる。
あの感覚。
死ぬ前の腹の減り方だ。
俺は肉を少し渡した。
「食え」
男は目を見開いた。
「……いいのか」
「死なれると後味悪い」
男は夢中で食べ始めた。
ミナは何も言わない。
ただ火を見ていた。
しばらくして。
男が小さく頭を下げる。
「……助かった」
「何があった」
男は少し迷ってから言った。
「奴隷商から逃げた」
空気が止まる。
奴隷商。
珍しくない。
この世界では。
戦争孤児。
借金。
亜人。
弱い人間は売られる。
男は続けた。
「仲間もいた。でも……」
言葉が止まる。
たぶん死んだ。
俺はそれ以上聞かなかった。
その時。
ミナがぽつりと言う。
「レクトと同じ」
「……何が」
「弱い人」
グサッときた。
「否定できねぇ……」
でも。
その言葉で少し分かった。
ここにいる三人。
全員、捨てられた側だ。
英雄じゃない。
選ばれた人間でもない。
ただ。
生き残れなかった人間。
その時だった。
男が急に顔を上げる。
「……静かすぎる」
「え?」
次の瞬間。
森の奥から遠吠えが響いた。
ウゥォォォ……
近い。
オオカミの遠吠。
しかも。
一匹じゃない。
ミナの顔が青くなる。
男が低く言った。
「火、消すな」
その声で。
俺は初めて理解した。
火は暖かいだけじゃない。
“群れの境界線”なんだ。




