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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~朱華の紫灰~

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第九十四話 刻印の上書き

——ゴォォォォォッ!!!


朱の明星が、天を衝く。

回廊は血よりも濃い朱に染まった。


灰色の霧が霧散する。

典膳の激情。

朱炎が意志を持ったうねりとなる。


「……信鷹……すまぬ……」


瞳から一筋の雫が頬を伝う。


——バサッ——


開かれた朱の扇。

それは一切の躊躇なく死の舞を刻む。


「朱炎・拍!」


紫の血管が焼き切れる。


『ぐおあぁぁぁっ!!』


——バサッ——


『がぁぁぁぁっ!!!?』


扇が空を切る。

鐘鬼の絶叫が虚空に響く。


典膳は理解していた。

鬼に堕ちた魂は、二度と人の理には戻れないことを。


救うとは——即ち祓うこと。

兄を兄のまま終わらせる。

典膳は愛を殺して鬼となる。


「貴様は……俺が、この世に存在しなかったと——上書きしてやる!!」


世界の理が命じる必須の絶望。

典膳は自らの命を瑕疵として燃やす。


——典膳が朱の炎を極限まで凝縮する。


——ガチッ——


信鷹の身体が止まる。


「——っ!?」


鐘鬼が目を見開く


——バキッ!!


枯れ蔓が逆流した。


(今だ……典膳っ!!)


狂ったように鳴動する異界の只中。


信鷹の意志が吠える。

明里へ。

まだ見ぬ甥へ。


我が身が滅ぶ恐怖などない。

須藤の未来だけは——

この誇り高き弟に託す。

須藤の未来を託す。


純然たる祈りが、典膳の前に無防備な隙を晒す。


だが——

肉体の自由を奪われた鐘鬼もまた、往生際悪く足掻く。


「……ま……待てっ……典膳っ!!待ってくれ……っ!」


紫の瞳が、一瞬だけかつての黒い輝きを取り戻した。

信鷹の温かな声が情けないほどに震えている。


「……明里のところに……帰らねばならぬのだ!典膳……っ」


振り上げた扇が、微かに止まる。


「——俗物が。誰の声を真似ている」


典膳の瞳が、射抜くように鐘鬼を見据える。


「俺の兄、須藤信鷹は……卑怯であっても、卑屈ではない。」


——バサッ——


「愛する者のために命を乞うような……誇りなき男ではないっ!!」


(やれぇぇぇ!!典膳―――っ!!)


「おおおぉぉぉぉぁぁっ!!!!」


その咆哮と共に、極限まで凝縮された朱の炎が爆ぜる。


「朱炎・采っ!!!!!」


——ズアァァァッ!!——


『ぐぎゃあああぁぁぁっ!!』


鐘鬼の叫びと共に、巨大な朱の柱が天を貫く。


——ゴオアァァァ——


信鷹の声を借りた偽りの絶望が、音を立てて崩れていく。

異界そのものを包み込んだ朱の烈火。

それは、紫の呪縛を灰塵へと帰していった。


——ユラッ——


残火に純白の炎が混ざる。

一瞬だけ穏やかに微笑む信鷹の姿を象った。

その瞳は、すべてを託し終えた安堵に満ちている。


『——ありがとうな……弟よ……明里を……須藤を——頼んだぞ』


声なき確かな遺言。


——フワッ——


典膳の頬を白い陽炎が優しく撫でる。

名残惜しそうに。

熱を残したまま。


陽炎は静かに消えていく。


「……」


——ドシャッ——


「はぁ……はぁ……」


典膳は息を詰まらせ膝をつく


——タッ——


焦土の向こう。


一匹の柴犬が静かに佇んでいた。


どこまでも澄んだ黒い瞳は——

ただ、典膳を見ていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

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