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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

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第七十話 緋色の家族

「…………」


沙苗は、まだ座っている。


手の中には——

朱色の首輪。


「沙苗様」


「…………」


返事はない。


——ザッ——


「沙苗様」


「…………」


朱禰は何も言わない。


ただ、紅葉の隣を歩く。


「…………」


——フラッ——


紅葉の身体が——

揺れる。


「っ……」


朱禰の手が伸びる。


「大丈夫です」


「…………」


紅葉が——

笑う。


「歩けます」


「そう」


朱禰の手が戻る。


「なら」


前を見る。


「歩きなさい」


「はい!」


——ザッ——


「…………」


沙苗の前。


紅葉が——

止まる。


「沙苗様」


「……紅葉?」


ようやく——

顔が上がる。


「…………っ」


沙苗の瞳が見開かれる。


透けた身体。


薄い——

輪郭。


「紅葉……」


「はい」


「身体……」


——スッ——


沙苗が手を伸ばす。


「どうしたの……?」


「…………」


紅葉がその手を見る。


「大丈夫です」


「大丈夫じゃ——」


「沙苗様」


紅葉が笑う。


「聞いてほしいことがあります」


「…………」


沙苗の手が止まる。


「私」


紅葉が——

自分の胸へ手を置く。


「ずっと」


「…………」


「緋色を見てました」


「…………」


「綺麗で」


「…………」


「暖かくて」


「…………」


「みんなが笑ってて」


「…………」


「私」


紅葉が——

少し俯く。


「あの色が」


「…………」


「大好きだったんです」


——ギュッ——


沙苗が首輪を握る。


「でも」


紅葉が顔を上げる。


「違いました」


「……何が?」


「私が好きだったの」


「…………」


「緋色だけじゃなかった」


沙苗を見る。


「沙苗様が」


「…………」


「好きだったんです」


「…………っ」


「怒って」


「…………」


「泣いて」


「…………」


「無茶して」


「…………」


「それでも」


紅葉が笑う。


「誰かのために笑う」


「…………」


「沙苗様が」


「…………」


「大好きです」


沙苗の瞳が——

揺れる。


「だから」


紅葉が朱禰を見る。


「?」


朱禰が眉を上げる。


紅葉が笑う。


沙苗へ——

向き直る。


「さっき」


「…………」


「朱禰さんが」


「…………」


「私に」


少し——

照れ臭そうに。


「名前をくれました」


「名前?」


「はい」


「紅葉じゃなくて?」


「紅葉は」


紅葉が笑う。


「沙苗様にもらいました」


「…………」


「だから」


——スッ——


胸へ手を当てる。


「もう一つ」


「……?」


「もらいました」


「何を……?」


紅葉が——

息を吸う。


「須藤」


沙苗の目が——

見開かれる。


「私」


「…………」


「須藤紅葉」


「…………」


「らしいです」


「らしいって何よ」


朱禰が後ろから言う。


「だって」


紅葉が振り返る。


「勝手に決めたじゃないですか!」


「異論はないと言ったでしょう?」


「私が言う前に!」


「遅いのよ」


「もう!」


「…………」


沙苗が二人を見る。


「ふっ……」


「……?」


紅葉が振り返る。


沙苗の口元が——

僅かに上がる。


「勝手すぎ……」


「誰が?」


「朱禰さんよ」


「そう?」


「そうよ……」


「…………」


紅葉が沙苗を見る。


その顔に笑顔が戻る。


「…………」


紅葉の瞳が——

潤む。


「沙苗様」


「何?」


「私」


「…………」


「須藤紅葉で」


一度、唇を結ぶ。


「いいですか?」


「…………」


沙苗が紅葉を見る。


消えかけた身体。


震える足。


それでも——

笑っている。


「……何よ」


沙苗が鼻を啜る。


「それ」


「え?」


「私に聞くこと?」


「…………」


「朱禰さんが」


首輪を握ったまま笑う。


「もう決めたんでしょ?」


——ポロッ——


紅葉の目から——

涙が落ちる。


「はい」


「なら」


沙苗が——

手を伸ばす。


「おいで」


「…………っ」


紅葉の唇が——

震える。


「紅葉」


「はい……」


沙苗が少し迷う。


「あたしの」


——ギュッ——


「——妹」


「沙苗姉さまっ!!」


「うわっ!?」


二人が倒れる。


——ベチャッ——


「ちょっと紅葉!」


「沙苗姉さま!」


「重い!」


「ごめんなさい!」


「離れて!」


「嫌です!」


「なんでよ!」


「妹だからです!」


「関係ないでしょ!!」


「あります!」


「ない!!」


「あります!!」


「…………」


朱禰が見る。


泥だらけの二人。


「……まったく」


扇で口元を隠す。


「須藤の女は」


瞳が笑う。


「本当に五月蠅いわね」


「朱禰さんのせいでしょ!!」


「沙苗のせいよ」


「あたしぃ!?」


「ふふっ」


「笑わないで!!」


朱禰が空を見る。


灰色。


まだ——

何も変わらない。


「悪くないわ」


視線を戻す。


沙苗。

紅葉。


二人の——

姉妹。


紅葉の輪郭が——

揺れる。


——スゥ——


「……?」


沙苗が——

紅葉を見る。


「紅葉?」


「はい?」


「身体……」


「……え?」


薄かった指先。


そこに——

色が戻っていく。


紅葉が手を見る。


「私……」


——スゥゥ——


輪郭が——

戻る。


「なるほど」


朱禰の瞳が細くなる。


「朱禰さん?」


「いいえ」


朱禰が優しく笑う。


「何でもないわ」


「絶対何か分かってる顔でしょ!」


「さあ?」


「またそれ!?」


「自分で考えなさい」


「もう!!」


「沙苗姉さま!」


「紅葉まで五月蠅い!!」


声が響く。


灰色の世界に。


家族は血で決まらない。


生まれ方でも決まらない。


名前をもらい。

姓をもらい。


互いを選ぶ。


その日。


名もなかった観測者は——

一人の妹になった。


その名は——

須藤紅葉。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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