第六十九話 緋色の執着
「…………」
何も——
考えたくない。
「…………」
何も——
したくない。
灰色。
全部が——
灰色に染まっている。
「……もう」
声が出ない。
「…………」
シンもいない。
緋色も消えた。
「……疲れた」
何に疲れたのか。
それすら——
分からない。
「…………」
來も。
朱禰さんも。
蒐も。
紅葉も。
みんな——
「…………」
——ズキッ——
「……?」
——ズキッ——
「…………」
——ズキッ——
「……何」
沙苗が手を見る。
「…………」
拳を握っている。
「何で……」
指を開こうとする。
「…………っ」
開かない。
「……痛っ」
爪が掌へ食い込んでいる。
「…………」
いつから?
分からない。
「……何」
ゆっくり——
指を開く。
——ギシッ——
「っ……」
掌。
泥と血。
その中に。
「…………」
朱色。
「…………」
沙苗の指が止まる。
「シン……」
首輪。
「…………」
さっき拾った。
それから。
ずっと——
握っていた。
「……何で」
もういないのに。
「…………」
全部。
どうでもいいって——
思ったのに。
「……何で」
——ギュッ——
また握る。
「…………っ」
痛い。
掌が痛い。
「……馬鹿」
誰に言ったのか。
「…………」
息を吐く。
「もう……」
終わったこと。
「……いいの」
手を開けばいい。
「…………」
首輪を離せばいい。
「…………」
——スッ——
指が緩む。
「…………っ」
——ギュッ——
「…………」
離せない。
手が止まる。
「…………」
沙苗が首輪を見る。
「何でよ……」
涙は出ない。
「もう」
声だけが震える。
「いないじゃん……」
返事はない。
「…………」
灰色だけが広がっている。
「いないじゃない……」
——ギュッ——
「何で……」
拳が震える。
「離せないのよ……」
分からない。
何も——
分からない。
「…………」
身体は知っている。
心も知っている。
「……っ」
爪がまた食い込む。
「…………」
それでも離さない。
「……そっか」
沙苗が小さく呟く。
「…………」
全部。
手放したつもりだった。
もう何もいらない。
何も残っていない。
そう——
思っていた。
「……馬鹿みたい」
まだ握っている。
「…………」
灰色の中。
朱色の首輪。
光らない。
燃えない。
何の力もない。
「…………」
沙苗は首輪を握る。
その意味も分からないまま。
朱は——
そこにいると信じた。
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