第六十八話 緋色の終焉
——ボォォォォッ!!——
緋炎。
世界が燃えている。
「いける……」
「…………」
典膳を見る。
灰色の向こう。
シンの姿があった。
「…………」
原初の灰牙。
典膳の傍にいた——
家族。
「シン」
『…………』
「力」
——ギュッ——
拳を握る。
「貸して」
『…………』
緋炎が揺れる。
「みんな!」
声を上げる。
「いくよ!!」
來。
蒐。
朱禰さん。
紅葉。
「…………」
みんながいる。
「シン!!」
緋炎が集まる。
「力を貸して!!!」
——ボォォォォォォッ!!——
世界が染まる。
灰色を押し返す。
「…………っ」
熱い。
身体が焼ける。
「これなら……!」
この炎なら——
あいつに届く。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!」
——ドォォォォォォンッ!!——
緋炎が——
典膳を呑み込む。
「…………」
音が——
消える。
「…………」
典膳の胸。
大きな穴。
「……やった」
息が漏れる。
「…………」
——ガクッ——
膝から力が抜ける。
「やった……」
「…………」
——ザッ——
「……え?」
典膳が——
立っている。
「…………」
あたしは穿った。
「なんで……」
——ザッ——
「なんで」
——ザッ——
「動けるの……?」
「…………」
典膳が——
笑う。
「……嘘」
胸の奥。
心臓が——
ない。
あるのは——
灰色。
「…………」
穴の中。
何かが蠢いている。
「何……それ」
——ズズズッ——
灰色が溢れる。
「…………っ」
身体が動かない。
違う。
恐怖じゃない。
本能が——
拒絶している。
「駄目……」
あれは——
駄目。
「…………」
死じゃない。
死ならまだ残る。
悲しかったこと。
嬉しかったこと。
怒ったこと。
笑ったこと。
來と歩いたこと。
柚の牛鍋。
父さん。
朱禰さん。
紅葉。
シン。
全部。
生きた証だ。
「…………」
あの灰色は違う。
——ズズズズズッ——
「来ないで……」
消える。
身体じゃない。
命じゃない。
「……嫌」
生きていたことが——
消える。
「嫌……っ」
何も残らない。
「そんなの……」
須藤は納得して死ぬ。
ずっと。
そうだった。
死ぬなら自分で選ぶ。
最後まで——
自分の意志で。
「こんなの……」
選べない。
「納得なんて……」
できるわけ——
「ないじゃん……」
——ゴォォォォォォッ!!——
灰色が迫る。
「…………」
逃げろ。
身体へ命令する。
「動いて……」
足が動かない。
「動け!!」
——ゴォォォォォォッ!!——
「…………」
來。
蒐。
朱禰さん。
紅葉。
みんな。
「……ごめん」
ここで消える。
「…………」
目を閉じる。
——ザッ!!——
「……?」
何かが前へ出る。
小さい。
茶色い——
背中。
「…………」
尻尾。
「……シン?」
柴犬。
いつもの——
姿。
「何……」
『…………』
「何してんの?」
シンは振り返らない。
「シン」
——ゴォォォォォォッ!!——
灰色が迫る。
「待って」
『…………』
「シン!!」
——ザッ——
沙苗が手を伸ばす。
「退いて!!」
届かない。
「シン!!」
小さな身体が——
灰色の前に立つ。
「やめて……」
『…………』
「やめてよ」
シンが——
僅かに振り返る。
「…………っ」
いつもの顔。
縁側で。
勝手に昼寝して。
酒を飲んで。
牛鍋を食べて。
何百年も——
須藤の傍にいた。
駄犬。
「シン……」
——ゴォォォォォォッ!!——
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!!!」
灰色がシンを呑み込む。
「シンッ!!!」
——バヂィィィィィッ!!——
朱。
灰。
色が——
混ざる。
「シィィィィィンッ!!!」
手を伸ばす。
「…………」
何も掴めない。
「…………」
灰色が晴れる。
「……シン?」
いない。
「…………」
何もない。
「シン」
返事はない。
「……嘘」
——カラン——
足元。
何かが落ちた。
「…………」
朱色。
「……」
首輪。
「…………」
沙苗が膝をつく。
——ベチャッ——
「……シン?」
首輪を拾う。
「…………」
冷たい。
「……ねえ」
——ギュッ——
「……ねえってば」
「…………」
朱色はもう燃えない。
「……シン」
灰色の中。
沙苗は一人。
「…………」
緋色は典膳を赦せなかった。
シンも守れなかった。
「……何のための」
——ギュッ——
「……緋色よ」
朱色の首輪を握る。
「…………」
光が消える。
沙苗の中から。
緋色が消える。
世界は——
灰色に染まった。
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