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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

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第六十三話 陽だまりの亡霊

——サァァァ——


かつて庭だった場所。


「…………」


朱禰は立っている。


灰色だけの世界で——

そこだけに色がある。


その手には一振りの朱色の扇。


「…………」


——ギュッ——


「……兄さん」


小さな声。


「あなたは——」


瞳を閉じる。


「昔から」


朱色の羽織。

豪快な笑い声。


「本当に……」


口元が僅かに緩む。


「馬鹿だったわね」


『朱禰!』


「…………」


『悩んで分からんなら——』


嫌な予感。


『殴れば分かる!』


「…………」


『あはははっ!』


「…………」


朱禰の眉間に皺が寄る。


「思い出すんじゃなかったわ」


——サァァァ——


霧が流れる。


「……本当に」


息を吐く。


「どうしようもない兄」


強かった。


誰よりも。


何をしても届かなかった。


「天才」


朱禰が呟く。


「……違うわね」


そんな言葉では足りなかった。


人の理など——

平然と踏み越える。


どうしようもない兄。


笑う。

酒を飲む。

馬鹿を言う。


そして——

誰よりも家族を愛した。


「…………」


朱禰の視線が動く。


「……沙苗」


声は届かない。


「…………」


朱禰が扇を見る。


兄が遺したもの。


「……守るって」


扇を握る手に力が入る。


「決めたのに」


——ギシッ——


「私が」


「…………」


「何があっても」


声が震える。


「守るって」


沙苗を見る。


「決めてたのに……」


——ポタッ——


「…………っ」


朱禰が俯く。


「兄さん」


涙が落ちる。


「ごめんなさい」


——ギリッ——


「私——」


唇を噛む。


「守れなかった」


——ミシッ——


「あなたが」


扇が軋む。


「命を懸けて守ったものを」


扇の骨が食い込む。


「…………私はっ!!」


——ツッ——


「……っ」


掌から血が滲む。


「…………」


その朱を見つめる。


「……何を」


息を吐く。


「しているのかしら」


涙を拭う。


「私は」


——スッ——


「まだ」


顔を上げる。


「生きているじゃない」


——パサッ——


扇を開く。


「嘆くのは」


朱禰の瞳が細くなる。


「死んでからで十分よ」


——バサッ——


扇を振るう。


灰色の霧が——

割れる。


「沙苗」


「…………」


返事はない。


「立ちなさい」


「…………」


「いつまで」


扇を構える。


「そんな顔をしているの」


白。


指先に淡い光。


「私たちは」


朱。


扇に火が灯る。


「須藤の女でしょう?」


——ボッ——


白緋。

小さな炎が混ざる。


「…………」


朱禰が笑う。


強く。

気高く。


少し——

意地悪く。


「それとも」


扇で口元を隠す。


「私が知らない間に」


瞳だけが笑う。


「随分と弱い女になったのかしら?」


——ボォッ——


炎が広がる。


灰色が揺れる。


「だったら」


——ザッ——


「叩き直してあげる」


白緋が——

灰色を照らす。


「私も」


「…………」


「あなたも」


「まだ——」


朱禰の瞳に火が宿る。


「終わってないわ」


——パサッ——


朱色の扇。

白緋の炎。


灰色の世界に色が混ざる。


それはまだ小さな種火。


魂は——

色を取り戻す。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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