第五十九話 決別と微かな震え
自らに芽生えた——
典膳への羨望。
「……は……」
それは——
緋色への裏切り。
「最悪やな……俺っちゅう鬼は……」
本能と情。
引き裂かれる視線の先。
朱禰。
沙苗。
そして——
紅葉。
「…………」
見られない。
今の自分を映すようで。
「……すまんな」
掠れた声。
「俺は……もう……」
——ザッ——
「ここには——」
——ザッ——
「居られへん」
家族を守るためではない。
資格がない。
同じ緋色を信じる資格が。
裏切り者は——
消えればいい。
この灰色に呑まれて。
遠く。
音が響く。
——ゴォ……ォ——
森の奥。
——ゴォ……ォ……——
止まった世界が。
再び脈を打つ。
「……なんや……今の……」
誰も抗えない。
そう思っていた。
——ザッ——
蒐の足は震えの先へ向く。
「…………」
いない。
あの男だけが
ここにいない。
「……來様」
胸の奥に僅かな火が灯る。
「アンタなら……」
灰色の奥を見る。
「なんて言う……?」
自分を拾った。
意味をくれた。
最凶という背中を——
見せてくれた。
あの憧れ。
鬼という問いへの答え。
「鬼は鬼……」
——ザッ——
灰色へ踏み込む。
「ヒトも鬼やろ?」
——ザッ——
「なあ……來様」
——ゴォ……ォ——
何かが脈打つ。
——ザッ——
蒐は歩く。
罪悪感を引き連れて。
その先にいる。
何かに会うために。
憧れか。
死か。
知らないままでいい。
「……あんたは」
蒐は見据える。
「——見つけたんか?」
自分の——
迷いの先。
その答えを。
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