第五十八話 毒という名の羨望
力ない瞳が——
危うい光を宿していた。
「……最凶の鬼に」
掠れた声。
「俺は——憧れていた」
息を吐く。
「そう……死ぬほど、憧れたんや」
黒雷。
世界を蹂躙する背中。
來。
それが——
蒐にとっての正解。
唯一、絶対の最凶。
だが、あの日。
その正解が——
塗り替えられた。
「……厄介な毒が、俺ん中に回っとる」
蒐の口元が——
歪む。
「あの最凶の鬼が……」
言葉が止まる。
「……あいつには、指一本触れられんかった」
須藤典膳。
圧倒的な暴力。
触れたものを壊すのではない。
存在そのものを——
消す。
「……典膳」
笑う。
「俺は……あの力に魅入ってしもたんや」
認めたくない。
反吐が出る。
それでも——
震えた。
歓喜に。
強き者に——
惹かれる。
強き者に——
跪く。
あの日。
來を見上げた——
あの時と。
同じ。
「……ほんま」
目を閉じる。
「鬼ってのは……難儀な小物や」
力。
それだけで。
「勝手に惹かれてまう」
理性も。
情も。
「そんなん……関係あらへん」
魂が——
勝手に。
「……跪いてまうんや」
長い——
息を吐く。
「力こそが……この世のすべて」
自嘲。
「性根が根腐れしとるわ……俺」
仲間を——
傷つけた。
世界を——
灰に染めた。
敵。
憎むべき存在。
「……難儀なもんやで」
蒐の指が——
僅かに震える。
「自分を壊した敵に……」
魅入ってしまった。
「恋でもするみたいに……惹かれるなんてな」
吐き気がする。
それでも——
目を逸らせない。
「俺にとって……力は」
蒐の瞳が——
虚空を見る。
「家族より……尊いもんなんやろか」
泥の中から——
救った背中。
「……來様」
家族という——
温い場所を教えてくれた。
「アンタは……その答え、知っとるんか?」
蒐の口元が——
歪む。
「俺は……」
鬼は——
力に魅入られる。
抗えない本能の赴くまま。
鬼は——
欲する。
鬼であることを。
鬼は——
消えない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、
評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。
そして、もうひとつの物語——
『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。
和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




