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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

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第五十五話 再定義される最凶

「…………」


——ポタッ——


朱が落ちる。


「……あのガキ」


ゆっくりと——

拳を開く。


「俺を最凶だと」


瞳を閉じる。


「……そう呼んでいた」


返り血を浴びた——

一人のガキ。


『——あんたに、憧れてるんや!』


「…………くくっ」


來の口元が——

僅かに緩む。


「馬鹿なガキだ」


あの日からだった。


誰も近付かなかった背中。

誰も追わなかった背中。



「來様!」


鬱陶しいほど——

追い続けた。


「待ってや!」


「失せろ」


「嫌や!」


「殺すぞ」


「知っとる!」


「……」


「俺も連れてってや!」


「断る」


「なんでや!」


「五月蠅い」


「なあ!」


「…………」


「來様っ!」


「…………」


「來様って!!」


「……殺すぞ」


「あはははっ!」


「…………」


何度追い払っても。

何度殺気を向けても。


何度——

拒絶しても。


「……」


消えなかった。


「鬱陶しい」


來が呟く。


「本当に——」


口角が上がる。


「鬱陶しいガキだった」


——ポタッ——


拳から——

血が落ちる。


「最凶の鬼に……憧れる、か」


來が——

天を仰ぐ。


灰色。


どこまでも——

色のない空。


「今の俺を見たら」


目を細める。


「お前は——」


「……」


「何て言う」


答えなど——

返ってこない。


「…………」


來の瞳が閉じる。


沙苗。

朱禰。

紅葉。

蒐。


そして——

自分。


「……なんだ」


息を吐く。


「そういうことか」


鬼の血。


何百年経とうと——

変わらない。


「俺は——何を恐れていた」


沙苗に見られること。


かつて——

地獄を歩いた自分。


殺し。

壊し。

喰らい。


誰にも止められなかった——

最凶の鬼。


その姿を。


「…………くはっ」


來が鼻で笑う。


「馬鹿馬鹿しい」


沙苗の顔が浮かぶ。


傍若無人。

型破り。


鬼を鬼とも思わない——

あの女。


「……あいつが」


肩が揺れる。


「今さら俺を見て——くくっ」


堪えきれず笑う。


「引くわけがないだろうが」


浮かぶ。


ありもしない——

沙苗の声。


『あんた、迷いの無い顔になったわね』


「…………」


そして——

肩が揺れる。


「くくっ……ははははっ!!」


灰色の森に——

笑い声が響く。


「違いない」


來が顔を伏せる。


「そう言う女だ」


——グッ——


拳を握る。


「なら」


黒。


指の隙間から——

雷が漏れる。


——バチッ——


「俺は」


——バチバチッ——


黒雷。


「鬼でいい」


灰色の地面を——

黒が這う。


「ヒトになど」


瞳が開く。


「ならなくていい」


その瞳に——

かつての光が戻る。


「俺は」


——バヂヂヂヂッ!!——


黒雷が膨れ上がる。


「ヒトに憧れる——」

來が笑った。


獰猛に。

傲慢に。


そして——

どこか楽しそうに。


「最凶の鬼で在ればいい」


——ドンッ!!——


灰が弾けた。


來を中心に——

地面が円状に吹き飛ぶ。


「……くくっ」


黒雷が——

身体を這う。


「まさか」


——ザッ——


一歩、踏み出す。


「何百年経っても——」


——バチッ!!——


「教えられるとはな」


蒐。


最凶と呼んだ。

最凶に憧れた。


そして今では——

平然と殴りかかってくる。


「……帰ったら」


來が笑う。


「一発殴るか」


——バヂッ!!——


黒雷が弾ける。


——ギュゴオッ——


黒雷が來を覆う。


「理由は?」


自分で呟く。


「気に入らんからだ」


——ズンッ!!——


「十分だな」


空気が——

沈んだ。


灰色の森が軋む。


「すまんな」


自分の胸に手を置く。


「ヒトに憧れる——」


目を閉じる。


「鬼の來よ」


そして——

開く。


「お前はやはり」


黒雷が——

天へ昇る。


——バヂヂヂヂヂヂッ!!——


「最凶でなければならんらしい」


地獄を歩いた最凶。


誰も背中を追えなかった——

暴君。


だが——

今は違う。


守るものがある。

帰る場所がある。

隣を歩く者がいる。


だから——

殺す。


奪うためではない。

喰らうためでもない。


守るために——

敵を叩き潰す。


「天敵に——」


來が構える。


——ギシッ——


大地が軋む。


「災いを齎す鬼」


黒雷が——

爆ぜた。


「それが俺だ!!!」


——ドォォォォォォンッ!!!——


灰色の空が震える。


——ズンッ——


足が——

大地を踏む。


——バヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!——


黒雷が

灰色を食い破る。


「…………」


來が笑う。


その黒は——

誰かを真似た色ではない。


誰かに与えられた力でもない。


ようやく取り戻した——

自分の色。


最凶の鬼。


黒が色を葬る。


王が——

再び降り立った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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