↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/159

第五十二話 最凶という名の道化

灰色の空からは、何も降ってこない。

雨も、雪も。

ましてや先ほどまで戦場を支配していた、あの噎せ返るような死の匂いさえも。


「……っ、はあぁ……っ!!」


來は、灰に塗れた大地を爪が剥がれるほどに掴み、無理やり上体を起こした。

肺に流れ込む空気は無機質で、鉄の味さえしない。

命の燃焼を感じさせない、ただの空虚な呼吸の反復。


視界の端には、動かなくなった蒐。

呆然と座り込む朱禰の背中。


そしてその先――朱色の首輪を見つめたまま、魂が抜けたように震える沙苗の姿があった。


「……俺は……守れなかった……」


いつもの鋭い來の声が、今はひどく掠れ、惨めな湿り気を帯びて響く。


「……生きながらえて……しまった……」


自嘲の笑みが、來の口元に深く刻まれた。

最凶の鬼。

そう自負し、その力こそが沙苗を守る盾だと信じて疑わなかった。

だが、その絆に酔っていたのは、自分の方だったのだ。

ヒトになろうとした、紛い物の鬼。

その成れの果てが、泥を啜りながら、慟哭をただ見つめている。


「……典膳……貴様の言う通りだ……」


脳裏に、あの冷徹な嘲笑が、呪いのように木霊する。


――『弱者であるお前たちという、取るに足らぬ虫けら……』


「……滑稽な道化師だ……俺は……ただの……」


來は、傍らに転がっていた折れた黒刀を、血が滲むほどの手で握りしめた。

今まで、自分が沙苗を守ってやっていると思っていた。

だが、現実は違った。

沙苗の緋色の暖かさに甘え、牙を研ぐことさえ忘れていたのは、俺の方だ。


「……っ……がっ……あああああああっ!!!!」


來は色のない空に向かって吠えた。

それは敵を威嚇する咆哮ではない。

己の無力。

剥き出しになった傲慢。

そして何より、沙苗の隣に立つ資格を失ったという、醜い己への断罪。


静寂に包まれた灰色の世界。

最凶と謳われた男の無様な慟哭だけが、出口のない空へ、虚しく溶けていった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。