第五十一話 色彩の墓標
灰色の空。
灰色の地面。
風すらも温度を失い、ただ凪いだだけの虚無が、世界の終わりまで続いている。
沙苗は、石のように重い瞼をこじ開けた。
視界に飛び込んできたのは、かつて世界と呼ばれた場所の成れの果て。
何もかもが、そこにある。
木々は葉を落とすことすら忘れ、風化したはずの石材もかつての形を保っている。
だが、同時に何もかもが生きてはいない。
この世界からは、生命の循環を示す死の匂いが、根こそぎ消え去っていた。
「……あんなに……あんなに死を撒き散らしていたのに……」
典膳が纏っていた、あの噎せ返るような濃密な死の香りが、皮肉にも恋しくすら思える。
今のこの場所は、無機質な清潔さを保った巨大な牢獄だ。
代わりにまとわりつくのは、質量を持った絶望と諦め。
泥のように重い大気は、一歩を踏み出す意志さえも、ジリジリと削り取っていく。
「……來……蒐……朱禰さん……紅葉……」
沙苗は這いずるようにして、仲間たちの名を呼んだ。
「…………ぁ…………」
喉から出たのは、声にならない掠れた吐息。
極限の咆哮。
魂を消失させた原初の灰牙の絶唱。
答えを認めたくはなかった。
認めてしまえば、この灰色の静寂に、自分の心まで完全に飲み込まれてしまうと分かっていたから。
だが、無情にも真実はそこに横たわっていた。
「………………」
見渡す限りの灰色の世界。
命も、音も、明日への期待さえも剥ぎ取られた空虚な大地で。
ただ一箇所だけ、生の残り火を灯しているものがあった。
――朱色の首輪
使い込まれ、綻び、けれど最後まで誇り高き獣の証であり続けた、小さな輪。
「……シン……シン……っ、う……あああ……っ!!」
沙苗の絞り出すような慟哭が、音を失った世界へ虚しく突き刺さる。
典膳が望み、完成させてしまった停滞。
独り残された沙苗の目の前で、シンの意志だけが、残酷なほど鮮やかに燃え残っていた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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そして、もうひとつの物語——
『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。
和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
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今後ともよろしくお願いいたします。




