第五話 日常
「父さん。祓いよりただいま戻りました。万事、滞りなく」
須藤家の門をくぐった先、当主の書斎に座す主。
道源は、娘の煤けた顔を見て細く目を細める。
「そうか。ご苦労。二人とも疲れたであろう。少し休んだら柚の店に向かうといい。二人が戻ると聞いて、夕餉の準備をしてくれているそうだ」
「え?!ほんとに!?久しぶりの牛鍋っ!!」
さっきまで凜としていた沙苗の顔が、一瞬で年相応の表情に戻る。
現金なものだ、と道源は喉を鳴らして笑った。
「道源。土産の団子だ。今、茶を淹れる」
來が静かに、慣れた足取りで台所へと消えていく。
その後ろ姿を見送ってから、道源は傍らの娘に声を落とした。
「……來のやつ、何かあったか。心なしか、いつもより表情が穏やかに見える」
沙苗は首を傾げ、記憶を辿る。
「さあ。何かいいことでもあったんじゃない?例えば、旅先で食べた団子がびっくりするほど美味しかった、とかね」
「そうか。それは確かにいいことだな」
「道源。茶だ」
戻ってきた來が、差し出した湯呑み。
道源はそれを受け取り、熱を確かめるように啜った。
苦い。
そして、熱い。
沸騰したばかりの湯を、加減もせずに注いだような、不器用な熱。
(……鬼がヒトで在りたい、か)
道源は熱さに痺れる舌を落ち着かせ、満足げに目を閉じる。
(來。お前が願うお前は、とうに立派なヒトだ。須藤の立派な刀であるよ)
「……相変わらず不味い茶だな。來、お前も座れ」
「……不味いというなら飲まなくても構わん」
夕暮れの屋敷に、茶を啜る音が静かに響く。
数百年変わらぬ茶の苦さ。
それは当主と來が好む、須藤家の日常の一部であった。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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