第四話 今昔の茶柱
家路に向けて土産の団子を買う。
來は大きな体を丸めるようにして、三色団子の串を眺めていた。
その隣で沙苗は湯気の立つ茶碗を両手で包み、揺れる新緑を眺めている。
「……沙苗」
來が団子の一粒を頬張りながら口を動かした。
「……俺は、ヒトだろうか」
來は昔の沙苗を思い出していた。
今の沙苗と再び出会い、居場所を強引に与えてくれた、あの日の記憶。
沙苗は茶柱が立ったのを見つめ、ふっと唇を綻ばせた。
「あんたは鬼。それでいて、ヒトなんじゃないの?あんたは何者かであるのだけは確かよ。それで十分じゃない」
沙苗の言葉に、來の手が止まった。
団子の甘いタレが、指先に零れる。
「……それで充分なのか?」
「十分よ。少なくとも、あたしにとってはね」
來は、穏やかな沙苗の言葉に納得した。
「そうだな……十分だ」
沙苗は來の答えを聞きながら、温かくなった茶を一口啜った。
大きな体をした、最凶の鬼。
來は串団子を持ったまま、物思いにふけっている。
(難しいこと考え過ぎなのよ。あんたはあんた)
横目で來を眺めながら、沙苗はやれやれと肩をすくめた。
沙苗の茶は、ゆっくりと時間をかけて、さらに熱さを溶かしてゆく。
「來。団子が泣いてるわよ。さっさと食べなさい」
「……ああ……なあ、沙苗」
「何よ」
「今は、この団子が旨い。それだけでいい」
沙苗は声を上げて笑った。
「相変わらず鬼らしくないわね。でも、それでいいとあたしも思うわ」
傍から見れば、体の大きな夫を尻に敷く、気の強い嫁。
かかあ天下の夫婦にも見える、人と鬼。
來は温くなった茶を飲みながら、清々しい顔をした沙苗の横顔を見て思う。
(……悪くない。今も昔も、な)
「沙苗。団子、もう一皿くれ」
「あんたねぇ……」
茶柱は新緑に揺られていた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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