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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

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第四十四話 絶対者の退屈

――瞬間――


その場にいた全ての者が、目に見えぬ刃を喉元に突き立てられた。

本能が生きることを拒絶する、確かな錯覚がそこにはあった。


「……この世界は、少しばかり騒がしすぎる……」


耳元を撫でるような、冷たく甘い声。

どこまでも静かな、だが絶対に逆らえないほどの圧倒的な圧を伴っていた。


気が付くと、沙苗たちは抗う間もなく頭を垂れていた。

膝が震え、指先一つ動かすことさえ許されない。


決して抗えない。

存在の格の差が、彼らを地面に縫い付けていた。


「……くすんだ色と……懐かしく……そして、不愉快な華の香りだ……」


死が、沙苗のすぐ横を静かに通り過ぎる。


いつでも、何度でも殺せるという無機質な確信を纏った灰色が、足元の躯を灰に変えながら歩を進める。


沙苗の肌を撫でた気配は、濃密な死という言葉ですら生温い。

不死であるはずの存在から漂う、生を否定し、死をも否定した相反する何か。


「私は……かつて、不死であることを願った……」


沙苗たちの背後で、歩みが止まる。

男は、薄雲に隠れた月を見上げるように、緩やかに首を傾げた。


「永劫の絶望を切望した……だが……それも、酷くつまらないものであった……」


その声には、激越な怒りも、深い哀しみも、欠片ほども宿っていない。

ただ、終わりのない果てを無心に眺め続けるような、底なしの空虚だけが横たわっている。


「いつの世も……あるのは無駄な命の塊。壊すことができない器など、ただの置物と同じだ。愛でる価値も、砕く愉悦もありはしない……」


灰色が、ゆっくりと振り返る。

その瞳に宿るのは、万物を焼き尽くした後の灰の荒野のような、完全なる虚無。


「……私はね、飽きたのだよ。弄べる命すら存在しない、色のない世界に。灰も、朱も、緋も……そして、これらを巡る因果のすべてに……」


沙苗は心臓を握り潰されそうな恐怖に抗い、血が滲むほど唇を噛んで顔を上げた。

僅かに視界に入った、その絶対者を射抜く。


「……わかるか?……退屈なのだよ、私は。この永劫という名の檻がな……」


かつて、何者かであったヒトの形をした、巨大な絶望がそこに立っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします。

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