第四十三話 死の匂いと、否色の再誕
束の間の静寂が包む。
灰牙の獣は緋色に怯えていた。
忘れていた死に怯えていた。
灰牙の獣には存在しえなかった救い。
否色に染まったモノの死。
「あいつは……意志の無い獣なの……?」
あまりにも異質な存在。
「……あれが、あたしたちが向き合う敵……」
沙苗の言葉が重く響く。
「そのようね……緋色の沙苗を、明らかに狙いを定めていたわ」
朱禰が朱色の扇で優雅に汗の滲んだ首を扇ぎながら言葉を放つ。
「……一つ確かなことは、あいつらがとんでもないっちゅうことですな……」
「鬼の力と同等……それ以上かもしれん……」
蒐と來、鬼である二人も、未だ手に残る痺れに脅威を感じていた。
「紅葉」
沙苗が紅葉に向き合う。
「あんた……あの力は何?」
「あれは……理を縛る私の緋色です。沙苗様の緋色が救いならば、私の緋色は存在という魂を縛る業の緋色……」
静かに語る紅葉の顔には、いつもの微笑みは無い。
「私がこの世界の観測者として沙苗様と共にいる理由です」
「またそんな顔をさせちゃったわね……あんたのお陰であたしたちは祓えたのよ。顔を上げなさい」
「そうよ。須藤の女は下を向かないから強いの。あんたもそうなさいな」
朱禰も沙苗の声に続いた。
「……はい!私、下向きません!!」
沙苗と朱禰は、そんな紅葉の頭を優しく撫でる。
「……そうも言ってられないみたいだぞ」
ここまで傍観していたシンの言葉に緊張が走る。
『……アアァ……ギギ……ッ』
沙苗たちの目の前に、再びあの灰牙の獣の呻きが響く。
「……またっ……!?」
灰色の雫が落ちてくる。
一つではなく、幾つもの雫が。
灰牙の獣が顕現する。
だが、それは存在をより歪な形となって現れた。
それは、否色の本能が畏怖する、ただの意志ある躯として。
何者が歩く躯の道。
沙苗たちの前に灰色、存在そのものが、死の匂いを持って降り立った。
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