第三十九話 味のある団欒と灰色の縁
「死ぬかおもた……地獄より地獄やった……」
「真理だな……味があるというのは……」
命からがら地獄の牛鍋を脱した蒐と來が、柚の作った本物の牛鍋を啜る。
二人はようやく戻ってきた魂の抜けた声で呟いた。
その隣では、紅葉が自分が作った小鍋を、ハフハフと愛らしく頬張っていた。
その平穏こそが、今の彼らにとっては奇跡に近い。
「いい酒だ。悪くない」
シンだけは、何事もなかったかのように『鬼殺す』を喉に流し込んでいる。
その横顔は、百戦錬磨の侍のそれだった。
「……それで、あんたたちはこれからどうすんだい?その灰色の世界とやらを」
柚が、山積みの空皿を片付けながら、極めて日常的な声で尋ねた。
「あたしの緋色で灰色の世界と真っ向から向き合うだけよ」
沙苗が自らの掌を見つめ、静かに応える。
「そのためにも、何が理由で灰色という色が生まれたのか……それを調べる必要があるわ」
戦うべき敵の正体を知らぬままでは、いずれその色に呑まれる。
「兄さんの書斎に行く必要があるわね」
朱禰が、酒杯を手元で揺らしながら言葉を継いだ。
「須藤家の緋色……灰色と戦う宿命を課せられているのには、明白な理由がある。兄さんなら、必ず何かを遺しているはずよ」
沈黙を守っていた來とシンが、示し合わせたかのように同時に、ある名を口にした。
『……須藤典膳……』
「須藤典膳……?誰です、それは」
蒐がいつもの軽薄さをかなぐり捨て、二人の異様な気配に問い返す。
來の端正な顔に、深い憂いと、拭いきれない痛みが宿る。
「……須藤典膳は」
シンが、絞り出すように言葉を紡いだ。
その瞳には、数百年の時を経てもなお色褪せない後削が滲んでいる。
「……俺が、須藤信鷹という名の人間として生きていた頃の主君であり……俺の弟だ」
灰色の謎。
その深淵には、シンの人間としての過去が横たわっていた。
それは、來がヒトに興味を持った色とも重なる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、
評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。
今後ともよろしくお願いいたします。




