第三十八話 味を祓うもの
「……無味だ……」
來は目の前にある牛鍋を食し愕然としている。
蒐は声なき声で転がっている。
「……が……が……からいっ……!!!……」
紅葉の目は光を失っている。
「……沙苗様、朱禰様……」
柚は須藤家の女たち二人を前に、お玉を握って仁王立ちをしていた。
須藤沙苗
須藤朱禰
二人は地べたに綺麗に正座をしている。
何か言いたげな表情を瞳に浮かべながら。
「確かにあたしは朱禰の経緯に魂が抜けたよ。呆けたさ、それは認める」
柚は固まっている來、転がっている蒐、目の光を失っている紅葉を尻目に言葉を続けた。
「勝手に台所に入って牛鍋を作ったことも許そうじゃないか。ただね……」
柚から発せられる圧が、二人の身体を頭の上から圧し潰す。
正座している足が痛い。
「どこをどうしたら無味と、鬼が悶絶する辛味に仕上がるっていうんだいっ!!!!」
沙苗は柚の視線から脱兎のごとく目を逸らす。
朱禰はやれやれといった無駄に尊大な溜息をつく。
「柚。これが須藤家の女だ」
「バカたれーーーーいっ!!!」
スコーーン!
綺麗な、あまりにも綺麗な音が店内に響く。
「……痛いではないか。お玉という刀は鍋に振るえ、鍋に」
「朱禰、あんた凄いわ……この世の辛味という辛味が同じ調味料で何故出来る!?それに沙苗!!あんた、食材を扱って何でこんなに無味!?味を祓うなぁぁぁ!!!」
パコーーン!!
響く名刀お玉の斬撃音。
「あたしは普通に作った。出来上がった牛鍋が悪い」
柚は息も絶え絶えに二人を責め続ける。
「蒐。牛鍋、葱抜きで頼む。あと『鬼殺す』も」
蒐は未だ立ち直れない苦しみの中、駄犬に怒りの目を向ける。
無味の牛鍋と向き合い続けている來。
「紅葉……食べ……」
「來様。噛み締めてお召し上がりくださいませ。その牛鍋は來様の分です。私は柚様に台所を少々お借りします」
須藤家の日常は日常ではなかった。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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