第三十六話 天才の矜持と、秘匿された継承
「……ふぅん、これが緋色なのね。なるほどねえ……こんな感じかしら?」
朱禰は興味深そうに沙苗の指先を見つめる。
おもむろに自らの細い指先をすっと動かした。
すると、そこには沙苗のものと酷似した、だがどこか淡く、揺らめく緋色が瞬時に灯る。
「なっ……!?」
沙苗が絶句する。
「ちょっと待って……見ただけでそれを……!?」
「あはは、本物には遠く及ばないわよ。私に扱えるのは精々、性質を模倣した緋色よ」
朱禰はからかうように笑いながらも、その瞳に深い感慨を宿した。
「でも……ようやく紡がれたわね……灰色への楔が……待った甲斐があったってもんね」
沙苗は気付いていない。
いや、気付けるはずもない真実がそこにはあった。
須藤家の当主にのみ代々課せられる、呪いにも似た秘密。
長子が生まれて間もなく行われる儀式。
『流転の儀』
この儀式は、対外的には伝統的な形式として形骸化されていた。
霊力の完全継承の秘匿。
真の意味を知る者は、須藤家の始祖と道源を含め、歴代でも片手で数えられるほどしかいない。
(兄さんは私を天才と言うけれど……本当の天才は、鬼才である兄さんの方よ)
朱禰は、かつての兄の背中を思い出し心の中で呟いた。
前世の沙苗が知る道源は、霊力の衰えた平凡な父の姿。
だがそれは、道源が自らの膨大な霊力のすべてを、沙苗が灰色に侵食されないための盾として、娘の魂に注ぎ込み続けた結果の残滓に過ぎなかった姿。
「沙苗。あんた、道源兄さんに感謝しなさいよ」
朱禰は凛とした深い愛を感じさせる声で告げる。
「あんたの緋色はね、ただの力じゃない……兄さんが一生をかけて編み上げた、最高に不器用な親心そのものなんだから」
沙苗はその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……知ってるわよ。あの不味い茶も、全部……」
「あら、あれはただ単に兄さんの味覚が絶望的だっただけよ」
「台無しだよ!!」
沙苗の叫びに朱禰はケラケラと笑う。
悲劇を悲劇のまま終わらせない。
須藤朱禰という女王が加わった。
物語は悲愴な運命論から、小気味よい反撃へと色を変え始める。
「あら、あれはただ単に兄さんの味覚が絶望的だっただけよ」
「台無しだよ!!」
沙苗の叫びに朱禰はけらけらと笑う。
悲劇を悲劇のまま終わらせない。
須藤朱禰という女王が加わった。
物語は悲愴な運命論から、小気味よい反撃へと色を変え始める。
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