第二十八話 命の削り滓、緋色の鎖の代償
「……そういうことね。須藤家の祓う者が短命だったのも、病気や怪我のせいじゃない……灰色の浸食を自分の命で食い止めていた。その削り滓が、私たちの寿命だった」
沙苗の声は震えていなかった。
むしろ、恐ろしいほどに透き通っていた。
シンは三杯目の朱色の盃へとゆっくり向き合い、澄み切った酒を喉に滑り込ませる。
一息ついたそのええ声は、残酷なまでに淡々と事実を上書きした。
「……ふん。今の鎖は灰色の理で無理やり縛っているに過ぎん。輪廻のない灰色の世界には本来、鎖などという概念は存在しなかったのだからな」
シンは盃を傍らに、沙苗の瞳の奥を射抜くように見据えた。
「鎖とは、色を創る者が……自らの意志で創り出すものだ。それこそが真の輪廻の鎖となる」
「あたしが……創る……?」
沙苗は隣に座る紅葉に視線を向けた。
紅葉は相変わらず、春風のような微笑を浮かべている。
けれど、その瞳の奥には砂粒ほどの、本当に小さな……けれど決して消えない哀しみが宿っていた。
紅葉は、納得しようとしていた。
自分が生まれた理由。
それは沙苗が創った緋色の化身である、と。
同時に、沙苗と來という二つの魂を永遠に繋ぎ止める、生贄にも似た緋色の鎖そのものになることなのだと。
「……紅葉……あんた……」
「沙苗様。私は……嬉しいんですよ」
紅葉は緋色の糸が混ざる袖で、沙苗の手を包み込んだ。
「私があなたの鎖になることで、來様との縁が理になる……灰色の停滞に飲み込まれず、何度生まれ変わっても、またこの場所で牛鍋を囲めるかもしれない。そのための瑕疵なら、私は喜んで受け入れます」
來が、拳を強く、静かに握りしめた。
「……俺たちを繋ぐために、お前がその犠牲になるというのか」
「犠牲ではありません、來様……それが、私の生まれた理由です」
紅葉の笑顔が、かえって痛々しいほどに眩しく店内に広がった。
シンは盃をじっと見たまま、何も言わずに俯いている。
沙苗は悟った。
自分の緋色は世界を救う希望などではない。
それは、大切な誰かの形を変え、鎖として打ち直す。
自分の傍に縛り付ける……残酷なまでの業の色。
机に置かれた三杯目の盃。
そこには、自分たちの未来を予見するかのような、冷たい灰色の影が落ちていた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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