第二十七話 遺された書斎、灰色の血統
店内の空気が、凍りついたように静まり返った。
空のはずの朱色の盃から、無いはずの揺らぎが聞こえるかのような静寂。
來が絞り出すような低い声で言葉を紡いだ。
「……俺と沙苗なのか?」
その瞳には、数奇な運命への疑念が宿っていた。
「この……救いようのない縁が、灰色の観測者が望んだ輪廻の鎖そのものだというのか」
沙苗の背筋に冷たい汗が走る。
(父さんはいつも、私たちにはわからない何かを見ていた……)
脳裏に蘇るのは、道源あの薄暗い書斎で過ごしていた光景だ。
乱雑に積まれた古文書、墨の匂い。
その中に紛れていた、何か。
灰色の記録。
「……っ……あの書斎に……!父さんは……須藤家は、最初から灰色を知っていた……」
蒐もまた、その結論に辿り着いたのか、鋭い視線を沙苗と來に走らせる。
「……須藤家は代々、鬼を殺さず封じもしなかった。裏があった。だから、來様みたいな規格外の鬼を、刀として飼い殺してきたのか……」
蒐が拳を握り、机を叩いた。
「須藤家の当主は、この世界の理が灰色で停滞するのを防ぐために……あえて白と黒を……ヒトと鬼を混ぜ合わせようとしていた。鎖を……作り続けていたんとちゃいますか?」
沙苗は言葉を失った。
自分たちが家族の絆や守護だと思っていた歴史。
それは、灰色の観測者がバラバラに砕け散ることで求めたもの。
終わりのある世界を維持するための、残酷な儀式だったのかもしれない。
「……シン……答えなさい……」
沙苗の震える声に、シンは目を細めた。
「ふん……道源か。あやつは今代の器にすべてを託すには、あまりに情が深すぎた。須藤家は守護の家系ではない……灰色の観測者が遺した鎖の断片を繋ぎ合わせる、世界の修復屋だ」
シンは、ええ声の裏に冷徹な真理を滲ませて続けた。
「沙苗。お前が緋色を顕現させたのは偶然ではない。須藤家の血が灰色を拒絶し続けてきたからこそ、新しい色を産み落としたのだ……だがな、來。お前という黒がいなければ、沙苗の緋色は形を成さなかった……。お前たちは、二人で一つの鎖なのだ」
紅葉が悲しげに沙苗の手を握った。
「沙苗様……須藤家の書斎に眠っているのは希望ではありません。それは、世界を繋ぎ止めるための……瑕疵の設計図なんです」
自分たちの意志で選んだと思っていた救済。
それは、数百年前から仕組まれていた灰色への抵抗だったのか。
沙苗と來。
二人の間に流れる縁という名の鎖が、今、不吉な軋みを上げ始めていた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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