表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/56

第二十三話 侍の矜持と犬の本能

「……で、つまりなんや……この嬢ちゃんは、沙苗様の緋色によって生まれた概念で、このわん公は須藤信鷹いう緋色の護り手らしいわ……信じられへんと思うけど」


蒐が肩の力を抜ききれないまま問い返す。

牛鍋処『ゆず』への道すがら、蒐は頭を抱えながら沙苗に報告する段取りを考えていた。


「嬢ちゃんの名前、沙苗様に決めてもらった方がええんちゃうかな……緋色を作った張本人やし。その方がこの子も納得するやろ」


「……ああ。そうだな」


來は短く答えたが、その視線は隣を歩くシンに注がれていた。

見た目は柴犬。

歩き方も圧倒的に柴犬。

だが、放つ才気だけが数多の戦場を潜り抜けた兵のそれだった。


店に着くなり、蒐が暖簾をまくって叫んだ。


「沙苗様!柚さん!田中の婆》の犬、見つけましたわ!……見つけたいうか……遭遇したいうか……」


台所から顔を出した沙苗と柚は、蒐の背後にいる真っ白な振袖の少女を見て怪訝な顔をした。


「……何よその子。迷子犬を探しに行って、迷子の女の子を拾ってきたの?」


「いや、それがですね……」


蒐の説明は支離滅裂だった。

シンを探していたら月の輪熊が出てきて、シンが空を飛び、少女の肩に降り立ったという。

挙句の果てに、ええ声で世界の理を語り出したのだと。


「……蒐。あんた……疲れて脳が緋色に焼かれたんじゃない?」


沙苗が冷ややかな視線を送る。


「そうだよ、蒐。熊はともかく、犬が飛んで喋るなんて。うちの牛鍋に熊の手を入れるくらいありえない話さ」


「いや、ほんまなんですって!來様も何か言うてくださいよ!」


その時だった。

スッ、と。


柚の足元に、件の柴犬が音もなく佇んだ。

その犬は、ただ遠くの地平線を見つめるような哀愁を漂わせ、口を開いた。


「――女将。牛鍋、葱抜きで一つ……あと、この盃に『鬼殺す』の澄酒を頼む」


『っっっっ!?』


店内の時間が、物理的に止まった。

柚は手に持っていたお玉を床に落とした。

静寂に響くその音は、万物すべてを拒絶する慟哭にも似ている。

沙苗は飲んでいた茶を盛大に吹き出した。


今、このモフモフした生き物の口から出たのは、場数を踏んだ大人の男でも躊躇するような、あまりにも重厚な酒豪のそれだった。


「…………ええ声ぇぇぇぇぇ!?!?!?」


沙苗の絶叫が店内に木霊する。


「な、なによこの声……!渋すぎるでしょ!?てか『鬼殺す』て何よっ!どこの杜氏の叫びよ!!犬が盃で乾杯っ!?」


「……ふん……葱はこの体が受け付けん……沙苗、そう怯えるな。知らない仲じゃなかろう?俺はただ、この騒がしい世界を少しばかり楽しもうと思っているだけだ」


シン――もとい、須藤信鷹は、ええ声でそう告げると、ちょこんと椅子に座った。

その隣では、謎の概念少女がニコニコと微笑みながら、混乱の極致にいる沙苗を見つめている。


「……蒐……これ、どういう状況……?」


「……俺に聞かんといてください……俺が一番……この声のせいで耳が孕みそうや……」


理の門番であり、緋色の護り手。

世界の観測者。

そんな壮大な存在たちが、牛鍋屋で夕餉を待つ。


沙苗が望んだ日常は、もはや彼女の想像を遥か斜め上に追い越し、混沌という名の色を帯びて走り出していた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ