表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~思緋紡ぐ鈍色の鎖~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/51

第二十話 時駆ける柴犬

静寂が、須藤邸を深く包み込んでいた。

須藤邸の縁側には、妙に座り心地の悪い空気が流れていた。


來は縁側に腰を下ろし、黙々と茶を啜っている。

その隣には、割烹着を脱ぎ捨て本来の洋装に戻った蒐が、所在なげに座っていた。


「……なぁ、來様。自分、さっきから茶柱立てようと必死過ぎません?さすがに必死過ぎて引きますわ」


蒐が、地元訛りを隠そうともせず皮肉を飛ばす。


「……うるさい。これは、縁起の問題だ」


來は無愛想に答える。


(今更、こいつと何を話せばいいんだ……)


実のところ、内心では昨夜の死闘以上に頭を抱えていた。


かつての憧憬の対象と、不器用な鬼。

理知的な仮面を被りつつも、中身はエセ八方美人の地元民な弟分。

二人の距離感は、まるで数十年ぶりに再会した、最高に仲の悪い兄弟のようだった。

沙苗もまた、微妙な距離感の二人を横目に温い茶を啜っていた。


そこに、血相を変えた柚が飛び込んでくる。


「あんたたち!シンを見てないかい!?」


「そういえば最近見てないわね。柚の店かうちのどっちかにはいつもいるはずだけど」


沙苗がおや?という顔で問い返す。


「店にはいないの?たまたまふらっと何処かに遊びに行ったんじゃない?」


「あたしもそう思ったんだけどさ……ちょっと拙いことになるかもしれなくて……」


「拙いこと?」


「噂になってるんだ。そこかしこで、熊が犬をかみ殺しているって……」


「……え……ちょ、ちょっと待ってよ!シンが喰われたわけじゃないわよね!?」


「それがわからないからここに来たんだよ!あーもう!蒐!あんた、鼻は利くんだろ!?影だか何だか知らないけど、さっさとその執着心でシンを探してきな!」


「はぁ!?俺、一応これでも鬼――」


「奉公が店主の命令聞けないのかい!」


「……へいへい。行けばええんやろ、行けば」


蒐は気だるげに立ち上がり、なぜか隣で茶を啜り続けている來をちらりと見た。


「……一人で行くんも、癪やな……來様。自分も来ます?ヒトの真似事して善行とやらを積む機会でっせ」


來は少しだけ目を見開き、無言で立ち上がった。


「……行く」


「即答かい……ほんま調子狂うわ」


こうして、かつて世界を震え上がらせた最凶の鬼、その影と呼ばれた小鬼による、迷子犬捜索作戦が幕を開けた。


「……で、あっちの路地裏から犬の匂いがするんやけど、どうします?」


「……俺は、反対側の山の方が気になる。あいつは、走るのが好きそうな顔をしていた」


「犬の顔で趣味嗜好判断するん、やめてもらえます?」


道行く人々が、異様な威圧感を放つ二人組を避けて通る。

一人は無口で山のような圧を放ち、もう一人は理知的な顔をしながらも、口を開けば柄の悪い訛りを垂れ流している。


「來様。自分、沙苗様の前ではもっとましな顔してるでしょうに。俺の前やと何でそんな借りてきた猫みたいな顔してるんです?」


蒐の問いに、來は立ち止まった。


「……お前に、何と言えばいいか、わからない……昔のままなら、殴れば済んだが」


「ははっ、違いありませんね。今は殴ったら沙苗様に俺が泣きつきますから」


蒐の冗談とも本気とも取れない言葉に、來は少しだけ肩の力を抜いた。


「……蒐。お前は、今の生活に納得しているのか」


「さぁ?納得いうよりはただの暇つぶしですよ。あ、おった……って、あれ……」


路地裏の先、ごみ捨て場で何かが唸っている。

迷子犬ではなく、山から下りてきたであろう巨大なツキノワグマだった。


「シンは……あの熊の足元で震えている柴犬だな」


來が指差す。


「なんで來様との初仕事が熊退治なんですか。これ、牛鍋屋の奉公代金やと割に合わへんやろ」


「俺が止める。お前はシンを拾え」


二人の鬼が、一匹の柴犬のために構える。

最凶の兄弟喧嘩の延長線上は、あまりに尊く、情緒が迷子になる長い一日の始まりだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ