第二話 猫の嘘
「団子、五人前」
「…………」
「熱めで苦い茶を二つ」
「一つはちょっとだけ温めで」
「はい。ただいまお持ちしますね」
——パタパタッ——
茶屋の娘が台所へ向かう。
『ニャー』
「あら?」
沙苗の足元。
一匹の三毛猫。
「コウー?」
台所から少女が顔を出す。
「お客さんに迷惑かけちゃだめよー?」
「この猫、あなたの?」
「最近拾ったんです」
「へえ」
「ほっとけなくて。ふふっ」
——ブルブルッ——
裏路地で震える——
一匹の三毛猫。
「どうしたの?」
猫の瞳は——
不思議なほど澄んでいた。
「大丈夫?」
仄暗く——
冷たい記憶。
一人の少女と猫。
景色は——
春の陽だまりへと変わる。
『ニャー』
「薫―っ?」
「あ」
「お客さんの団子とお茶出来たわよー」
「はーい!」
——コトッ——
「お待たせしました!」
——フワッ——
団子の香ばしい香り。
——ハグッ——
來が団子を頬張る。
「沙苗」
「ん?」
「あれ」
——スッ——
來は団子の串で空をなぞる。
「わかってるわよ」
——ズズッ——
「あれは人間の魂——」
沙苗の視線の先。
「来世で薫と結ばれるはずの男」
『ニャー』
「航汰の成れの果て」
——トプン——
新緑の茶。
波紋が——
静かに揺れる。
『ニャッ』
縁。
それは、因果。
生は時折——
時代を違える。
縁は繋がれたまま。
魂は——
今世に生まれる。
「航汰」
目の前の猫に——
歪な影が見える。
「あんたは反物屋の息子よ」
『ニャー』
「来世で生まれるの」
想いは——
穢れにもなる。
その矛先は——
来世の縁。
「今の幸せは魂を削ってのもの」
『…………』
「来世の役目はこのままだと——」
『ニャー』
「あんたは消える」
航汰は沙苗に視線を向ける。
「薫は来世で、独り果てる」
『ニャー』
航汰は理解していた。
今の幸せが——
来世の決別に繋がることを。
「…………」
——ヒョイッ——
來は猫の首根っこを掴み上げた。
「男ならハッキリしろ」
來の口元——
牙が光る。
「來」
「何だ」
「来世なんてのは」
——ヒョイ——
「単なる次の輪廻」
來から猫を取り上げる。
「薫との今が大事」
「…………」
「それもわかるわ」
「ふん」
「不満そうね?」
「納得して死ねんだろ」
「…………」
歪んだ縁。
それは戻らない。
自分の宿命への罰。
航汰の今。
薫との今世の別れ。
来世への回帰。
それは——
今世の死。
「コウ!おいでー!」
沙苗の視線の先。
薫がコウを抱きしめる。
無邪気で幸せな時間。
——パサッ——
沙苗が一枚の札を取り出す。
「私たちが決めることじゃない」
——キュッ——
首輪に結びつける。
命を削って言葉を伝える——
禁呪。
「航汰」
沙苗は言葉を続ける。
「あんたに三日間だけ時間をあげる」
『ニャー』
「その間に選びなさい」
「…………」
來は静かに二人を見る。
「あんたと薫。二人で」
「きつい役目は当人任せか」
「自分たちのことだもの」
「お前も性格が悪い」
「あら、言うじゃない」
——ズズッ——
沙苗の茶は——
温くなっていた。
三日後。
茶屋の裏庭。
「ご…めんねっ……」
冷たくなった三毛猫。
薫は——
泣いていた。
「う……うっ……あぁっ……」
声にならない嗚咽。
泣き腫らした目。
だが——
絶望の色はない。
——ギュッ——
薫の手には反物の端切れ。
——サアァァァァ——
風が吹き抜ける。
「……航汰さん……」
沙苗が背を向ける。
「納得したか」
「ええ」
——ザッ——
いつものように二人は歩き出す。
「ふーっ」
立ち昇る紫煙を追い越す。
「来世のあいつらの顔」
「うん?」
「いつか見に行くか」
「柄にもないわね」
「ただの——気まぐれだ」
今世の瑕疵。
輪廻。
それは——
誰もが出会うもの。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
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