第十七話 緋色の赦し
沙苗から溢れ出した緋色の炎は、來と蒐を包み込み、外界から二人を切り離した。
肺を焼く灼熱の空気を優しく溶かすような、ひどく不器用で、どこまでも温かい炎だった。
「……やれば、できるじゃないか……僕の命も……少しは、価値があったかな……」
蒐は、全身の力が抜けていくような、奇妙な浮遊感の中にいた。
これまで自分を縛り付けていた鋼の糸はすべて断ち切られ、張り詰めていた神経が、この温かさに解かれていく。
蒐の耳朶に、隣に腰を下ろした最凶の鬼の、低く、重い言葉が届いた。
「……業は大人が背負うもんだ……勝手に一人で抱え込むな……バカガキが……」
そのぶっきらぼうな一言が、蒐の凍りついていた時間を完全に溶かした。
蒐の頬を一筋の涙がなぞる。
泥水を啜り、誰にも理解されぬまま牙を研ぎ続けた小鬼。
最後の最後で、憧れた背中の主にその肩の荷を奪い去られたのだ。
憧れと、緋色の炎。
その二つに優しく抱かれ、蒐は深い安堵の中で意識を手放した。
今度こそ、誰の機嫌を取る必要もない、純粋な眠り。
猛き情を燃やし尽くした炎は、二人の間に横たわっていた呪いのような因果を灰に変え、静かに消えていった。
來は朱色に染まった己の手を拭い、背後に立つ沙苗へ視線を向けた。
「……沙苗。受け継いだか?……不器用なバカたちが遺したものを」
「ええ……本当に不器用なのよ。父さんも……この、大根役者も」
沙苗の声は凛と前を向いていた。
その瞳にはかつてない決意の緋色が灯っていた。
その視線の先では、まるで憑き物が落ちたような穏やかな顔で、小さな子供のように蒐が眠っている。
二人は確かに受け取った。
道源が命を賭して遺した意志と、蒐が命を削って研ぎ澄ました牙の重みを。
「來……あたしたちは、背負ったのね」
「……そうだな……重いぞ、こいつらの想いは」
隣で深く、安らかに眠る不器用なヒト――蒐の寝顔を見つめながら。
二人は、ようやく訪れた平穏な世界の色に、静かに溶け込んでいった。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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