第十六話 緋色の炎葬
業火が渦巻き、視界のすべてが朱色に塗り潰された地獄の真ん中。
沙苗の放った烈火は、周囲を食らい、轟々と咆哮を上げている。
だが、その灼熱の檻の中で、二人の鬼は正気とは思えぬ昂揚感に包まれていた。
「……悪くないだろう、この情炎の熱さは」
來が、黒刀を縦に構え、火の粉を散らしながら言い放つ。
顔の半分を煤で汚し、逆立った髪の隙間から、鬼特有の獰猛な眼光が蒐を射抜く。
「この程度の熱さ、まだまだ温いですよっ……!!」
応じる蒐の笑みもまた、かつてないほど深く、鋭い。
皮膚が焼ける匂い。
鋼の糸が熱を帯び、蒐の指先に食い込んで鮮血を滲ませる。
その痛みが、熱が、今、自分は來の傍らにいるという実感を強く与えていた。
「この程度で灰になるほど、僕の命は安くないっ……!!」
「……知っているさ。お前が背負った業は、この程度での炎で尽きるほど軽くはないっ!!」
二人の鬼は、言葉にならない咆哮を上げた。
外側からは死闘に見えるだろう。
だが、この瞬間の二人の魂は、かつてないほど共鳴していた。
蒐にとっては命懸けの研ぎであり、來にとってはそれに応えるための牙。
混ざり合う殺意と歓喜。
それは、地獄を歩んできた二人にしか分からない、歪で純粋な邂逅だった。
「蒐ーーーーーっ!!!」
來の絶叫が朱色の炎を割り、その一撃が放たれる。
蒐の全身を縛り上げていた鋼の糸が、黒刀の重圧に耐えかねて悲鳴を上げた。
一本、また一本と断ち切られていく。
「ぐ、がぁぁぁぁっ……!!!」
防ぎきれない。
いや、蒐は防ぐことを、心のどこかで止めていた。
迷いのない、最凶の牙。
蒐の胸元を、來の黒刀が深い弧を描いて切り裂いた。
「……來、様……」
裂けた胸口から、蒐の血が舞い上がる。
その瞬間、周囲を包んでいた業火が色を変えた。
猛々しく全てを焼き尽くそうとしていた朱色の炎が、ふっと凪ぐ。
代わりに立ち昇ったのは、優しく、けれど芯まで焦がすような確かな熱を孕んだ緋色の炎。
それは、蒐が願い続けた温かさ。
二人の鬼を包み込むその色は、凄惨なはずの決着を、まるで祝福するかのように静かに美しく染め上げていった。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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