第百五十四話 帰源
朱い光が揺れる。
「ただし」
道舟が人差し指を立てた。
「誰にでも渡せるわけではありません」
「……条件があるのか」
典膳が呟く。
「色の受け渡しには、四つの条件があります」
——パチン——
指を鳴らす。
朱い空間に、四つの光が浮かんだ。
「一つ」
道舟が指を立てる。
「須藤家の当主より、流転の儀による霊力の継承が完了していること」
「……流転の儀」
沙苗が道源を見る。
「ああ」
道源が頷く。
「俺が、お前に行ったものだ」
「うん」
「二つ」
道舟の声が続く。
「朱に連なる色の霊力を宿していること」
「朱に連なる……」
沙苗が自分の手を見る。
——ボッ——
指先に、小さな緋炎が灯った。
「緋色も」
「そうね」
朱禰が頷く。
「朱から生まれた色よ」
「三つ」
道舟が微笑む。
「霊力を抑える薬を服用しており、なお炎を顕現できること」
「……え?」
沙苗の手が止まった。
「薬?」
「…………」
柚が顔を上げる。
「それって……」
「田中家の薬ね」
朱禰が呟く。
「あの苦いやつ?」
沙苗の眉間に皺が寄る。
「また、あれ!?」
「まだ飲ませてないわよ」
「そういう問題じゃないの!」
蒐が首を傾げた。
「そんな苦いん?」
「飲めば分かるわよ」
「ホンマに嫌そうな顔しとる」
「苦いどころの話じゃないのよ」
「……話を聞け」
來が呆れた。
「四つ目が残っている」
「……あ」
沙苗が道舟を見る。
「四つ」
最後の指を立てた。
「流転の儀によって継承された霊力に、返還先が存在すること」
「返還先?」
道源が眉を寄せる。
「返す、ということか」
「ええ」
朱禰が呟いた。
「受け継いだ霊力を、元の持ち主へ……」
「…………」
典膳が扇を握る。
「道舟」
青年を見つめる。
「何を考えた……?」
返事はない。
道舟は穏やかに微笑んだ。
「この四つが揃って初めて、色を受け渡すための準備が整います」
——パチン——
四つの光が、一つに重なった。
「ですが」
言葉の温度が変わる。
「最も重要なのは、四つ目」
「…………」
「流転の儀は、単に霊力を渡すためのものではありません」
道舟が右手を開いた。
朱い光が二つに分かれる。
「継承された霊力は、受け取った者の色と混ざり合い、その働きを変えます」
「……!」
沙苗が息を呑む。
「道源の白が、沙苗の緋色を抑えていた……」
來が呟いた。
「ああ」
道源が腕を組む。
「その通りだ」
「しかし」
道舟が続ける。
「異なる色を宿したままでは、本来の色を他者へ渡すことはできません」
「……なるほど」
典膳の瞳が細くなる。
「まず、分けねばならぬのか」
道舟の声が響く。
「継承した霊力を、元の持ち主へ返す」
「…………」
「それによって初めて、自らの色のみを取り出すことができます」
沙苗が道源を見る。
「……父さん」
「ああ」
道源が頷いた。
「白を、俺に返すってことだな」
「でも」
沙苗が眉を寄せる。
「それなら、誰かに渡しても……」
「できません」
道舟の声が重なった。
「——っ」
沙苗が顔を上げる。
沙苗の問いなど聞こえていない。
ただ、遺された言葉を語っている。
「霊力には、元の器があります」
道舟が二つの光を見つめる。
「流転の儀によって継承された霊力を、別の器へ返してはなりません」
「何故だ?」
來が呟く。
「異なる器へ流し込めば、その器は霊力を受け止めきれず、壊れてしまいます」
「…………」
朱い空間が静まり返った。
「……壊れる」
沙苗が呟く。
「それって」
「命に関わる、ということだろうな」
道源が答える。
「返還できる相手は、流転の儀を行った者のみ」
道舟が静かに告げる。
「その者が存在しなければ、この方法は成立しません」
「…………」
沙苗が道源を見る。
道源も、沙苗を見ていた。
「父さん」
「何だ?」
「もし、戻ってきてなかったら……」
「ああ」
道源が笑う。
「無理だったな」
「…………」
「俺の白を、返す相手がいない」
「そう、だよね」
沙苗は俯いた。
道源は肩を竦める。
「まったく」
「……?」
「死んでからも、娘の世話を焼くことになるとはな」
「何よ、それ」
「父親ってのは、面倒なもんだ」
「自分で言う?」
「くははっ!」
沙苗が小さく笑った。
「でも、ありがとう」
「礼は、終わってからにしろ」
「うん」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、
評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。
そして、もうひとつの物語——
『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。
和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




