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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百五十五話 継想

「ふむ」


典膳が顎を撫でる。


「これで、四つの条件は揃っているわけか」


「ええ」


朱禰が頷いた。


「沙苗は流転の儀を受けている」


「緋色を宿している」


道源が続ける。


「田中家の薬も飲んでいるわ」


朱禰が沙苗を見る。


「それでも炎を顕現できる」


「そして」


來が道源を見る。


「返還先が、ここにいる」


「…………」


柚が息を吐いた。


「全部、揃ってるねえ」


「そうね」


沙苗が頷く。


「でも」


紅葉が口を開いた。


「一つ、気になります」


「何?」


沙苗が振り返る。


「白を返した後は、どうなるのでしょう?」


「……そうね」


朱禰の表情が変わった。


「俺の白が、沙苗の緋色を抑えていた」


道源が腕を組む。


「ええ」


「それを全部、返したら……」


沙苗が自分の胸に手を当てる。


「緋色が……」


「抑えられなくなる」


典膳が呟いた。


「……!」


「そういうことだ」


道源が頷く。


「沙苗の身体に、どれほど負荷がかかるか分からん」


「じゃあ」


柚が顔を上げる。


「危ないんじゃ……」


「その通りだな」


來が答えた。


「色を渡すということは」


道舟の残滓の言葉は穏やかだった。


「自らの内にあるものを、外へ出すということ」


道舟は目を細めた。


「それが、どれほどの力を持つのか。僕には分かりません」


「……!」


「未来の須藤が、どのような色を宿しているのかも」


優しく微笑む。


「ですから」


——パチン——


指を鳴らす。


四つの光が消えた。


「ここから先は、皆さんで考えてください」


「……え?」


沙苗が目を丸くする。


「ちょっと待って!?」


道舟は微笑んだまま。


「そこが一番大事なんじゃないの!?」


返事はない。


「……やれやれ」


來が額を押さえる。


「須藤家らしいな」


「本当ね」


朱禰が苦笑した。


「お前は、そこまで考えていたのか」


典膳は、道舟を見つめて呟いた。


「僕が遺せるのは、ここまでです」


「…………」


「未来の皆さんが、どのような答えを選ぶのか」


道舟が目を閉じる。


「それは、僕の知るところではありません」


そして、再び目を開いた。


「須藤の者だけで、すべてを抱え込まないでください」


「……っ」


典膳の瞳が揺れた。


「田中の役目は、須藤を守ること」


道舟が微笑む。


「そして。須藤が道を間違えた時に、止めること」


柚が息を呑んだ。


「婆ちゃんと、同じことを……」


「ええ」


朱禰が頷く。


「ちゃんと、伝わっていたのね」


道舟は、静かに頭を下げた。


「どうか」


朱い光が揺れる。


「未来を、生きてください」


——スゥッ——


青年の輪郭が薄れ始めた。


「……待て」


典膳が一歩、踏み出す。


「道舟」


返事はない。


「お前に、まだ……」


伸ばした手。


何百年も前に別れた弟が、目の前にいる。


だが、触れられない。


典膳の指先が、朱い光をすり抜けた。


道舟は、最後まで穏やかに微笑んでいた。


——フッ——


姿が消えた。


典膳の手が、宙に残る。


「典膳様……」


沙苗が声をかける。


典膳は、ゆっくりと手を下ろした。


——パサッ——


扇を開く。


「相変わらず」


小さく笑った。


「勝手な弟よ」


朱い空間が揺れ始める。


——ゴオォォォッ——


光が広がった。


「戻るぞ!」


來が叫ぶ。


「うん!」


沙苗が紅葉の手を握る。


——ズアァァァッ——


朱が消える。


空が戻る。

地面が戻る。


薬草の匂い。

土の匂い。


田中家の庭。


「戻った……」


沙苗が息を吐いた。


祠の中。


朱の扇は、静かに置かれている。


典膳が扇を見つめた。


「道舟……」


誰にも聞こえないほど、小さな声。


「お前の言葉」


——パチン——


扇を閉じる。


「確かに、受け取った」


道源が笑った。


「さて」


「何?」


沙苗が振り返る。


「試してみるか」


沙苗は、自分の胸に手を当てた。


緋色。


白に抑えられた、自分の色。


それを、解き放つ。


「うん」


沙苗が頷いた。


「準備はいい?」


紅葉が、その手を握り返す。


「はい!」


典膳。


道源。


朱禰。


三人が頷いた。


何百年もの時を越えて。

道舟が遺した四つの条件。


そのすべてが、今。


揃っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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