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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百五十一話 緋昇

朝餉を終えた一同は、庭へ出ていた。


「さて」


道源が腕を組む。


「始めるとするか」


「……ここで?」


沙苗が周囲を見渡す。


「何か問題でもあるか?」


「いや、問題っていうか……」


「沙苗」


朱禰が笑う。


「心配しなくても、兄さんが何か壊したら私が殴るわ」


「おい、朱禰」


「何?」


「殴る前提で話すな」


「ふふっ」


「……不安しかない」


來が煙管を咥えた。


「下手打つなよ」


「分かってる」


「信用できん返事やわ」


蒐が呟いた。


「沙苗」


典膳が扇を開く。


「緋色を出せるか」


「はい」


沙苗が一歩前へ出た。


——フワッ——


掌に緋色が灯る。


「…………」


典膳が目を細めた。


「見事な色だ」


「ありがとうございます」


「では、広げてみろ」


「……広げる?」


「ああ」


典膳は空を見上げる。


「異界の位置が分からぬ以上、まずは緋色がどこまで届くかを確かめたい」


「分かりました」


沙苗が両手を広げた。


——ゴウッ——


緋炎が立ち昇る。

周囲が緋色に染まった。


「……!」


紅葉が顔を上げる。


「沙苗姉さま……」


「大丈夫」


沙苗は笑う。


「もう少し、広げてみる」


——ゴオオッ——


緋炎が膨れ上がる。


空へ。


さらに、その先へ。


「…………」


典膳が扇を構えた。

道源も沙苗を見つめる。


「……ふむ」


「どうしたの?」


朱禰が尋ねる。


「おかしい」


「何が?」


「緋色が伸びん」


「……?」


沙苗が眉を寄せた。


「伸びてるわよ?」


「いや」


道源が首を振る。


「量は増えている。だが、広がる先が変わらん」


「そのようだな」


典膳が頷く。


「一定のところで押し戻されている」


「押し戻される……?」


沙苗が緋炎を見る。


確かに。

炎は大きくなっている。


しかし、その先へ進まない。


「……だったら!」


——ゴオオッ!!——


さらに霊力を込めた。


「沙苗!」


道源が声を上げる。


——ドクン——


「……っ!」


沙苗の胸が跳ねた。

緋炎が大きく揺らぐ。


「……あれ?」


——ドクン——


今度は、腕。

皮膚の下を緋色が走った。


「……痛っ……!」


「止めなさい!」


朱禰が叫んだ。


——バッ——


紅葉が沙苗の手を掴む。


「沙苗姉さま!」


——フッ——


緋炎が消えた。


「はぁ……はぁ……」


沙苗が膝に手をつく。


「……何、今の……」


道源が近付く。


「沙苗。腕を見せろ」


「……うん」


差し出された腕。

皮膚の下に、細い緋色が残っていた。


——スウッ——


やがて、その色も消える。


道源が眉を寄せた。


「やはりな」


「父さん?」


「お前の緋色は、抑えられたままか」


「……え?」


「流転の儀で、俺の霊力を継承しただろう」


「うん」


「あれは、お前の緋色を支える役目も果たしている」


「支える?」


「だが、それだけじゃない」


朱禰が沙苗の手首を取った。

脈を確かめる。


「沙苗」


「はい」


「田中の婆として、私が渡していた薬。覚えている?」


「……!」


沙苗の顔が引き攣った。


「あの……めっちゃ苦いやつ?」


「そう」


「忘れたいんだけど」


「残念ねえ」


朱禰が笑う。


「忘れさせてあげられないわ」


「うぅ……」


「沙苗。あの薬はね」


朱禰の表情が変わった。


「緋色を安定させるためのものだったの」


「……はい?」


「事実だ」


道源が頷いた。


「須藤の血には、代々強い色を宿す者がおった」


「……うん」


「中には、緋色に近い色を持つ者もいた」


「えっ!?」


「だが、長くは生きられなかった」


沙苗が顔を上げる。


「……どうして?」


「耐えられんのさ」


道源は沙苗の腕を見る。


「色が緋に近付くほど、器の負担が大きくなる」


「…………」


「お前は、歴代で最も強い緋色を持って生まれた」


「……私が?」


「ああ」


道源が頷く。


「だからこそ、田中家の薬が必要だった」


沙苗は自分の掌を見つめた。


あの苦い薬。

何度も飲まされてきた。


田中の婆の朱禰さんに叱られながら。


「……そんな理由があったんだ」


「ええ」


朱禰が答える。


「薬と、兄さんの霊力。その二つが沙苗の緋色を支えていたのよ」


「…………」


「そして、もう一つ」


朱禰が紅葉を見る。


「……?」


紅葉が首を傾げた。


「紅葉。あんたは沙苗の緋色から生まれた」


「はい」


「その時、沙苗の緋色の一部を受け取っている」


「……!」


沙苗が紅葉を見る。


「じゃあ……」


「ええ」


朱禰が頷いた。


「今の沙苗が緋色を扱えるのは、紅葉がその力を背負っていることも大きいわ」


「……私が」


紅葉が自分の胸元へ手を添える。


「そうよ」


朱禰が微笑んだ。


「あんたたちは、最初から繋がっているの」


——ギュッ——


沙苗が紅葉の手を握った。


「……そっか」


「沙苗姉さま」


「ありがとう、紅葉」


「……はい!」


紅葉が笑った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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