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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百四十七話 朱豪の盃

典膳は屋敷を見つめていた。


「典膳様」


沙苗が声をかける。


「…………」


典膳が振り返った。


「行きましょう」


「どこへだ」


「待ってる人がいます」


「……?」


沙苗が笑う。


「ご飯、作って」


——クスッ——


朱禰が笑った。


「始祖様」


「何だ」


「帰ってきたのですから」


朱禰は門の外を見る。


「まずは、食事でしょう?」


「…………」


典膳が信鷹を見る。

柴犬が尻尾を振った。


「俺を見るな」


「…………」


「腹は減った」


「喋る犬……」


蒐が呟く。


「今更そこか」


來が横目を向ける。


「いや、冷静になったらおかしいやろ」


「行くぞ」


道源が歩き出した。


「酒が待っている」


「そっちが本命やんけ!」


一同が歩き出す。


空がある。

土がある。

人の声が聞こえる。


「…………」


典膳は歩く。


一人ではない。

誰かと共に歩く。


それが酷く懐かしい。


「着きました」


沙苗が足を止める。


暖簾。


その向こうから音が聞こえる。


——グツグツ——


甘辛い出汁。

焼ける肉の香り。


「…………」


典膳が顔を上げた。


「ここが?」


「はい」


沙苗が暖簾へ手をかける。


「牛鍋処ゆずです」


——カラリ——


戸が開いた。


「お帰り!」


厨房から柚が顔を出した。


「お腹減ってるでしょう?」


手を拭きながら笑う。


その目元は——

少しだけ赤い。


「もう準備できてるわよ!」


沙苗が笑った。

「ただいま!」


「はいはい、お帰り!」


——グツグツ——


店の中央。

巨大な鍋から湯気が上がっている。


「…………」


典膳が鍋を見る。


肉。

肉。

肉。


「…………」


さらに肉。


「……牛か」


「牛です」


沙苗が頷く。


「何人分だ」


「さあ?」


柚が笑う。


「足りないよりいいでしょう?」


「…………」


典膳が信鷹を見る。


「俺を見るな」


「食えるだろう」


「誰が熊だ」


「まだ言うてへん!」


蒐が即座に突っ込んだ。

笑い声が店内へ響く。


「さあ」


沙苗が箸を渡す。


「典膳様も」


「…………」


典膳は箸を見る。


——スッ——


箸を鍋へ伸ばした。


肉を一枚。

口へ運ぶ。


「…………」


噛む。

もう一度。


「…………」


全員が見ている。


「何だ」


「いや……」


沙苗が笑う。


「どうですか?」


「…………」


典膳は鍋を見る。

もう一枚。


「美味い」


「……!」


柚が笑った。


「でしょう?」


——グツグツ——


牛鍋が煮える。

酒が並ぶ。


「では——」


道源が盃を持ち上げる。


「始祖様の帰還と——」


沙苗たちを見る。


「皆が無事に帰ってきたことに」


盃が上がる。


「乾杯!」

「乾杯!」



一刻後。


「…………嘘やろ」


蒐が呟いた。


目の前。

空の酒瓶が並んでいる。


「…………」


典膳は盃を傾ける。


——コトッ——


空。


——トクトクトク——


道源が注ぐ。


「…………」


——スッ——


典膳が飲む。


——コトッ——


また空。


「何なん、この永久機関……」


蒐の顔が引き攣る。


「酒は真理だ」


道源が笑う。


その横。

すでに二升。


「真理って何やねん!」


「呑めば分かる」


「絶対分からん!」


「蒐」


「何や、來様」


「うるさい」


「誰のせいや!」


——クスッ——


「…………」


蒐が振り返る。


朱禰が盃を傾けていた。


上品に。

ゆっくりと。


「……朱禰さん」


「何かしら?」


「それ……何杯目です?」


「さあ?」


「瓶で三升いってますけど」


「え?」


朱禰が微笑む。


「まだ乾杯したばかりでしょう?」


「怖っ!!」


蒐が後退る。


その足元。


——コロッ——


瓶が転がった。


「……?」


一本。

二本。

三本。

四本。


「…………」


視線を上げる。

柴犬。


「俺は酒には少々強い」


「犬がどんだけ飲んどんねん!!」


「犬ではない。信鷹だ」


「見た目は柴犬やろ」


「……愛くるしさに悶えよ」


來が酒を口へ運ぶ。


「可愛げなさ過ぎやろ!?」


「…………」


その横。


——ベチャ——


沙苗が机へ突っ伏していた。


「うぅ……」


頬は真っ赤。


手元には一杯だけ。


「……弱いな、沙苗」


典膳が見る。


「始祖様たちが、おかしいんですぅーー!!」


「そうか?」


「そうですぅ!!」


紅葉が口元を押さえて笑う。

頬には僅かな赤み。


「ふふっ」


「紅葉ぃ……」


「はい」


「みんなおかしいですぅ……」


「そうですね」


「認めた!?」


蒐が叫ぶ。


「蒐」


來が盃を置いた。


「相手の力量を見誤るな」


「何の戦いやねん……」


蒐は机に手をつく。


典膳。

道源。

朱禰。

信鷹。


「この家系……」


順番に見る。


「血ぃやなくて酒で出来てんちゃいますか……?」


「あはははっ!!」


道源の笑い声が響く。


——グツグツ——


牛鍋が煮える。

盃が鳴る。

笑い声が重なる。


須藤家の夜は——

始まったばかり。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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