第百四十五話 帰路
——ズズズズズッ——
灰色の大地が流れていく。
空が歪む。
罅から溢れていた光すら、今は遠い。
すべてが紫へ引かれていく。
「……っ」
沙苗は足元を見る。
——パキッ——
地面に罅が走った。
「沙苗!」
來の声。
——バキバキッ——
足元が崩れる。
「紅葉!」
「はい!」
——ジャラッ——
緋色の鎖が走った。
沙苗の身体へ巻き付き引き寄せる。
——ザッ——
「ありがとう」
「まだです!」
紅葉が空を見上げる。
紫が空を染め上げていく。
灰色だった空が色を変える。
「ここを出ます!」
「出るって、どこへ!?」
蒐が周囲を見渡す。
「もう出口なんて——」
——ゴゴゴゴゴッ——
遠くの灰色の山が崩れた。
「あるんかいっ!!」
地面。
空。
すべてが紫灰へ変わっていく。
「…………」
典膳はその光景を見つめていた。
「始祖様」
朱禰が声をかける。
「これは……」
「灰色の世界が喰われている」
「……!」
沙苗が典膳を見る。
「世界を……?」
「ああ」
典膳が扇を握る。
「鍾鬼だけではない」
紫灰が渦巻いている。
「ここに残された因果」
——ズズズズズッ——
灰が吸い込まれる。
「すべてを持っていくつもりだ」
「そんな……」
沙苗は周囲を見る。
ここには典膳がいた。
幾年もの間。
独りで戦い続けた世界。
それが今。
跡形もなく消えようとしている。
「…………」
——ザッ——
典膳が歩き出した。
「典膳様?」
「行くぞ」
沙苗が目を見開く。
「どこへ……?」
典膳は振り返った。
「帰る」
「……!」
信鷹が笑う。
「ようやく、その言葉を聞けたな」
「…………」
典膳は何も返さない。
だが——
その口元が僅かに緩んだ。
「急げ」
道源が周囲を見る。
「ここは長く保たん」
「はい!」
一同が走り出す。
——ゴゴゴゴゴッ——
灰色の世界が崩れていく。
沙苗は走る。
その前には、典膳の背中。
「…………」
暗闇の奥。
因果の向こう。
迎えに行くために——
追い続けた背中。
「沙苗?」
「……はい!」
沙苗は駆けた。
——ザッ——
典膳の横へ並ぶ。
「…………」
典膳が視線を向ける。
沙苗は前を見る。
もう——
追う必要はない。
隣を走る。
——ゴォォォォッ——
背後で紫灰が膨れ上がる。
「来るぞ!」
來が叫んだ。
——ズオォォォォッ——
世界が呑まれる。
灰色が消える。
「紅葉!」
「分かっています!」
紅葉が両手を合わせた。
——フワッ——
緋い光が広がる。
「皆さん、こちらへ!」
光が一同を包む。
——ゴオォォォォッ——
紫灰が迫る。
十歩。
五歩。
三歩。
「紅葉!」
「今です!」
——カッ——
緋色の光が弾けた。
直後。
——ズンッ——
灰色の世界が——
紫へ沈んだ。
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