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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百四十話 鏡壊

鍾鬼が嗤う。


『ククク……』


——ゴォォォォッ——


呼応するように紫の灰が吹き荒れた。


「……っ!」


——ギシィッ——


灰色の世界が軋む。


典膳。

鍾鬼。


二つの気配がぶつかり合う。

空間そのものが歪んでいく。


「典膳様!」


——ザッ——


沙苗が踏み出す。

紫の灰を掻き分ける。


「…………」


典膳は振り返らない。


その背中へ沙苗が近付いていく。


『……邪魔だ』


鍾鬼の声が響いた。


——ズォッ——


闇が蠢く。


「……っ!?」


沙苗へ向かって——

巨大な紫の灰が降りかかる。


その瞬間。


——ゴオァァァァァァァッ——


灰塵が爆ぜた。


「……!」


激しい火花。


鍾鬼の一撃が——

沙苗へ届く寸前で弾き飛ばされる。


「…………」


沙苗の足が止まる。


目の前。

典膳が立っていた。


沙苗を背中に隠し——

鍾鬼の前へ立ちはだかっている。


「……邪魔だと言ったろう」


典膳は振り返らない。


その背中は——

何も変わっていなかった。


須藤家を守る。

血を繋ぐ者たちを守る。

幾年を経ても。

狂気に呑まれても。


その身に刻まれたものは——

失われていない。


『ククッ……』


鍾鬼が嗤う。


『まだ守るか、典膳』


「…………」


『己の帰り道を踏み潰してなお——』


紫の灰が渦を巻く。


『まだ守る』


——ギリッ——


典膳は扇を握り締めた。


『この合わせ鏡の底で』


鍾鬼の声が響き渡る。


『永遠に届かぬと知りながら——』


嗤う。


『まだ、須藤を紡ぐか』


「…………」


典膳は答えない。


ただ——

鍾鬼を見据えている。


「典膳様……」


沙苗は、その背中を見つめる。


胸の奥が熱い。

敵じゃない。


この人は——

敵なんかじゃない。


狂気に呑まれても。

帰る場所を失っても。


最後の最後まで須藤家を守り続けていた。


誇り高き——

須藤家の当主。


「……信鷹」


道源が呟く。


「…………」


あいつが最後まで典膳を信じた理由。


命を落とすことを厭わなかった。


最期の瞬間まで傍を離れなかった理由。


今なら分かる。


目の前に——

その答えが立っている。


『鏡は割れぬ』


鍾鬼の声が落ちる。


『お前たちは永遠に——』


——ズオォォ——


紫の灰が広がる。


『同じ場所を廻る影法師よ』


「…………」


因果。


誰も帰れない。

誰も辿り着けない。


同じ場所を永遠に廻り続ける。


それが——

鍾鬼の理。


「…………」


——ザッ——


沙苗が歩く。


「……!」


典膳の肩が揺れた。


——ザッ——


鍾鬼と典膳。


互いを削り続ける——

暴威の中へ。


「来るな!!」


「……っ!」


典膳が振り返った。

初めて声を荒らげる。


「…………」


沙苗には分かった。

怒っているんじゃない。


近付けば巻き込まれる。

この因果に。


自分と同じ——

帰れない場所へ。


「…………」


——ザッ——


沙苗は止まらない。


手を伸ばす。


もう——

届く。


「迎えに来たんです」


「…………!」


須藤家で待ち続けた魂たち。


信鷹。

明里。


そして——

ここまで歩いてきた者たち。


そのすべてを乗せて。


「迎えに来ました」


——ギリッ——


典膳が扇を握り直す。


『ククククッ……!』


鍾鬼が嗤う。


——ゴォォォォッ——


紫の灰が吹き荒れる。


——スッ——


「……?」


沙苗の指先が何かに触れた。


見えない何かが、そこにある。


「これは……」


——フワッ——


掌から緋色の光が滲み出す。


——パキィン——


「……!」


硬質で澄み切った音。


「……これは……」


典膳が目を見開く。


『…………』


鍾鬼の嗤いが止まる。


目には見えない。


だが。


確かに罅が入った。


典膳と明里。

須藤家の魂たち。


幾年もの時を隔て続けた——

因果という名の合わせ鏡。


その表面に。


一本。

細く。

鋭い罅が走っていた。


灰鏡に咲く緋華。


誰も帰れなかった世界。

その中心。


緋い一輪が——

ゆっくりと。


蕾を開こうとしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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