第十四話 瑕疵の行く先
「仲良しこよしのお二人さん。覚悟、決めてないならお帰りくださいな」
軽薄な、けれど鼓膜を逆撫でするような声が、影の爪痕が深く刻まれた須藤邸の庭に響く。
縁側に腰掛けた蒐は、まるで自分の庭であるかのように、手入れの行き届いた松の枝を眺めていた。
「いつからここがあんたの家になったのさ、細目」
「お前こそ、俺に殺される覚悟はできているんだろうな。蒐」
沙苗の鋭い拒絶と、來の静かな殺意。
向けられた二つの刃を前に、蒐は目を細め、三日月のような薄い笑みを浮かべた。
「……いいえ、全く。必要ありませんから。僕が……僕自身が死ぬ覚悟、なんてものはね」
その言葉が終わるか終わらないかの刹那。
陽光に満ちていた庭に、物理的な質量を伴った影が溢れ出した。
陽を侵食し、色彩を奪い去る闇。
「……くっ!!」
來が、咆哮とともに押し寄せる影の奔流を正面から受け止める。
だが、重い。
この間、対峙した時とは明らかに違う。
蒐の放つ殺意には、迷いを断ち切った者特有の、濃く、容赦のない重さが宿っていた。
「こいつ……この前は、本気じゃなかったってことね……!」
沙苗が歯噛みし、手にした祓串を蒐の眉間に向けて穿つ。
しかし蒐は、沙苗の攻撃を歯牙にもかけず、ただ流れるような所作で右手を振るった。
その無防備な横腹を狙う影の爪。
來が弾かれた体勢から無理やり割り込み、黒刀でその一撃をねじ伏せるように受け止める。
ギ、ギギッ……
黒刀の刀身が何かに絞り上げられる、金属質の悲鳴が静寂を切り裂いた。
「相変わらず、悪趣味な獲物だな……!!」
「すみませんねえ……!誰かさんのせいで、性格が歪んでしまったかもしれませんねっ……!」
來の黒刀を縛り上げていたのは、影の中に明滅する硬質な線――鋼の糸だった。
目に見えぬほど細く、それでいて逃れられぬ因果のように強固な、蒐の執着の具現。
「……断ち切れない因果にこだわってる、細目らしいわよ!!」
沙苗の力の籠もった皮肉が、合図だった。
彼女の指先から放たれたのは、喪主の礼服を焼き切らんばかりの、生気に満ちた朱色の炎。
それは意思を持つ生き物のように鎌首をもたげ、來ごと蒐を焼き尽くさんと襲い掛かる。
「おいおい……!!來様ごとかよっ!!」
蒐が初めて、その細い眉を僅かに跳ねさせた。
対する來は、顔に散る火の粉を厭うこともなく、狂気じみた不敵な笑みを浮かべる。
「……誰の覚悟が出来ていないって、言ったんだ?」
次の瞬間、來と蒐、環境二人の間を繋ぐ鋼の糸。
すべてが等しく、沙苗の放った業火の渦に呑み込まれた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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