第十三話 何処吹く影
「……」
鬼がヒトに興味を持つ。
それは構わない。
鬼がヒトの世で生きる。
それも構わない。
だが、鬼がヒトで在ろうとする。
「——それは違う」
緑が生い茂る廃寺。
境内に重い溜息が響く。
影の中で木漏れ日が揺れる。
「鬼はどこまで行っても鬼」
天災。
最凶の在りし日の姿。
「守れないんだ」
——ギリッ——
「鈍の刀じゃ」
蒐が歯噛みする。
「鬼であろうが関係ない」
気に入らない。
「お前は何を守りたい?」
脳裏に——
道源の言葉が過る。
「…………」
未来を託すために死を選んだ男。
その自嘲気味な笑み。
すべてを見通した——
忌々しい目。
「くそが……」
——ズズッ——
影が蠢く。
「あの爺の言葉通りになってるのは癪だが——」
——ギシッ——
境内の床が哭く。
「そろそろ気付くか」
瞳に映るのは。
「あの二人なら」
憂いと期待。
「命はくれてやる」
蒐の言葉に——
覚悟の熱が入る。
「貴方の牙は俺が研ぐ」
———スッ——
「俺の世界は」
——ズズッ——
蒐を見ていた仏像がズレる。
「鮮やかなまま終われる」
己が生きる理由。
守りたいと願った日常の色。
その為なら。
「損な役回りだとは思わない」
自分の掌を見つめる。
道源を貫いた刃の感覚。
「俺が——」
遠い憧憬の記憶。
「貴方の前から永遠に消えた時は」
鋭く尖ったその瞳に——
哀愁が過る。
「いや——そうじゃない」
交わる必要がない宿命。
あの日。
影として生きると決めた。
——スゥ——
「……気付けよ」
ゆっくりと——
影が沈む。
「バカ共」
輪郭が影へと溶け込み始める。
「俺たちの命を遊ばせるんだ」
——ギッ——
影の爪が——
本堂の床を軋ませる。
「大根役者なら」
——ギッ——
「——鬼が喰らうぞ」
音が消える。
風化した廃寺の刻は——
再び止まった。
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