第十二話 詫びと錆び
須藤道源の葬儀は、彼という男の広大な人徳を物語るように、慕う者たちの静かなすすり泣きに包まれていた。
來はその喧騒から離れた縁側の隅で、遠くに揺れる供花の群れを眺めながら、独り紫煙を燻らせていた。
手元の煙管に視線を落とす。
そこにはかつて道源と酌み交わした時の、指の跡が残っているような気がした。
「……父も今頃、きっと草葉の陰で眠っているはずです」
式場の中心では、沙苗が父を送る喪主として、参列者に深く、静かに頭を垂れていた。
一滴の涙も見せず、気丈に振る舞うその背中は、須藤家の次代を担う者としての覚悟に満ちている。
來はその姿を見据えてから、灰色の空を仰いだ。
蒐との死闘で刻まれた胸の傷は塞がったが、道源と蒐が残した言葉は、逃げ場のない澱となって苦く、重く、來の中に沈んでいる。
「……鬼でありヒトで在れ、か。お前は影を照らし出した上に、自分すら世の贄にするつもりか……過ぎたお節介だぞ、道源……」
吐き出した独白を拒むように、凶鬼が見上げる曇天は、その鋭すぎる視線を避けるように割れた。
雲の隙間から、大地を突き刺すような鋭い陽光が注ぎ込む。
その時、不意に冷たい風が吹き抜けた。
來の煙管から立ち昇る紫煙が、意志を持った道標のように、色を重ねるように雲の彼方へ消えていく。
「沙苗」
いつの間にか隣に立っていた沙苗の名を呼ぶ。
「何よ」
視線を合わせぬまま、來は静かに問いかけた。
「俺たちは、あいつに……道源に、何かを託されたのかもしれない」
「……何を今更。そんなこと、言われなくてもわかってるわよ」
沙苗の声は、驚くほど澄んでいた。
「父さんは、最期の瞬間まで私たちを想っていた……悔しいぐらいに、穏やかな顔をして。あんな顔を見せられたら、泣く暇なんてないじゃない……渡されたのよ、私たちは」
沙苗の指先には、まだ父の血の記憶が、消えぬ熱として残っているようだった。
二人の間に、不思議な沈黙が流れる。
それは絶望に呑まれているだけでは見落としてしまう、前を向く者だけが拾い上げることのできる、真実の欠片。
(あの二人には、何かある)
言葉には出さずとも、二人の想いは重なっていた。
道源の死と蒐の凶行。
その裏側に潜む、あまりにも深く、あまりにも残酷な理由の予感。
「……來。あなたを研ぐなんて言ったあの細目。次に会った時には、ちゃんと躾なさい。須藤家の飼い犬としての礼儀を」
「……ああ、わかっている。今度は、楽に殺してやる」
突き放すような、けれど來なりの最大限の情を込めた言葉。
沙苗は一瞬、呆れたように來を見て笑った。
「……本当に不器用。でも、何もわかってなくていいじゃない。それでこそ、須藤家の刀よ」
沙苗が前を向き、一歩を踏み出す。
來は黒刀に肘を預けながら、不敵な笑みを浮かべた。
その瞳の奥には、もはや惑いはない。
「……業を背負うのは年長者の役目だ。そう思わねえか、蒐」
來は影一つ落ちぬ、無垢な陽だまりに向かって、独り静かに呟いた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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