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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百三十二話 千の香

——カタン——


何もないはずの奥。

何かの、音がした。


「…………」


「何かいるのか?」


來が音のした方へ視線を向ける。


——ズズッ——


蒐は影を伸ばし、気配を探った。


「……何もおらへんな」


「でも、何か不思議な感じがする」


朱禰が閉じた扇を指先で遊ぶ。


紅葉が目を閉じる。


「……帰ってきました」


誰に向けた言葉なのか。

答える者はいない。


「……お前——」


道源が視線を落とす。


「ここまで見えていたのか」


押し殺した声。

紅葉は答えなかった。


——ザッ——


「……!」


誰もいない砂の上。

一筋の足跡が浮かび上がった。


——ザッ——


——ザッ——


見えない誰かが、座敷の奥へ歩いていく。


——スゥッ——


足跡の周囲に、淡い線が浮かぶ。


四角い境界。


かつて敷かれていた畳の輪郭だった。


——スゥ——


浮かんでは、消える。

その繰り返し。


「…………」


沙苗は足元を見つめた。


「紅葉」


「何でしょう?」


先ほどまで、紅葉の背中を追っていた。


——ザッ——


沙苗が畳の境界を越えた。


「あたしも言った方がいいのかな」


「?」


「ただいま、って」


須藤の血を引く者として。

この家を継ぐ者として。


——ヒュウッ——


風向きが変わる。


「……え?」


沙苗が顔を上げる。


仏壇。

香炉。


何一つ残っていない。


誰も火をつけていない。


それなのに——

線香の香りがした。


懐かしい家の奥から漂ってくるように。

その香りが、六人を包み込んだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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