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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百三十一話 継ぎ灯

「その手を——私は知っています」


紅葉の言葉に、誰もが息を呑んだ。

來が身を乗り出す。


「……誰の手だ」


「……皆さんに、見ていただきたいものがあります」


「何だ?」


「ここでは、お見せできません」


紅葉が立ち上がる。


「一緒に来てください」


六人は文机を離れた。


——ザッ——


紅葉の足取りに、迷いはない。

崩れかけた須藤邸を背に、夜の闇へと歩いていく。


五人はその背中を追った。


どれほど歩いただろうか。


——パチッ——


紫灰の空気が弾けた。

來が顔を上げる。


そこには——

焼け落ちたはずの縁側。

苔むした庭。

砂に埋もれた井戸。


失われたはずの景色が、闇の中に浮かんでいた。


水の匂いがする。


——チリン——


硝子の音。


沙苗が振り返った。


「きゃははっ!」


子供の笑い声。


だが——

誰もいない。


「……何、これ」


沙苗が呟く。

來は歩みを緩め、周囲を見据えた。

蒐が指先を伸ばす。


気配を探る。


「…………」


道源が足を止めた。


視線の先。

屋敷があった。


失われたはずの屋敷。

朽ち果てた屋敷。


二つの姿が、同じ場所に重なっている。


「……そんな馬鹿な」


道源の声が掠れた。


沙苗が振り向く。


「父さん……?」


道源は屋敷を見つめていた。


紅葉が足を緩める。

重なり合う景色を見渡し、目を細めた。


「皆さん、まだここで暮らしてるんですね」


「……暮らしてる?」


沙苗が聞き返す。


「はい」


紅葉は頷いた。

それだけ答えて、歩き出す。


沙苗は屋敷を見た。


初めて見るはずの景色。


帰ってきた。

不思議とそんな感覚が、胸に広がっていく。


履物を脱いで、縁側へ上がりたい。

畳の上に座りたい。


誰かに、ただいまと告げたい。


「…………」


沙苗は腕の火傷を見つめた。

指先で、その痕に触れる。


沙苗は紅葉を横目に見ながら歩き続けた。


紅葉が足を止める。


「紅葉?」


かつて、座敷があった場所。


壁も。

柱も。

仏壇も。

位牌も。


何一つ残っていない。


頭上には夜空が広がっている。


紅葉は、その場所を見つめた。

六人が、何もない座敷の跡に集まる。


——カタン——


何もないはずの奥から——

何かの、音がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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